テキストサイズ

獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話

第7章 嫌いの影響




とっぷりと夜が更け、年寄り臭くブツブツこぼしているシン。

「夫婦喧嘩は犬も食わないといいますが。 全くそのとおりですね」

あの後、ちょっとだけイチャイチャしていた私たちだった。 メロルくんの再三の呼び掛けに負けてリビングのドアの外に出ると、次のお客さんたちも含め、玄関前から廊下がみっちり獣人で埋まっていて、家人全員が対応に追われたのだ。
シンはいそいそと整理券を配り始めたが、獣人に踏まれやしないかと、かなり神経を使ったらしい。
サイズ的に、彼らから見るとシンはミニカーみたいなものだから大変だっただろう。


そんな嵐も去り、私は寝室で今日買ってもらった服や先ほどの下着を試着しては鏡を眺めている。

「ねえシン、変じゃないかな? 私なんかにこんないい物……結局セイゲルさんに無理やり気味に買わされたんだけど」

見慣れないせいかもしれない。 けれども、どうも身分不相応というか、服から顔が浮いているような気がする。
しかめっ面で鏡を睨む私にシンがふっと笑う気配がした。

「いいのです。 逆に呼んでおいて何も買わない方がセイゲル様にとっては恥ですからね。 大体ご主人はセイゲル様のいう通り、自己評価が海溝並みに低すぎるのですよ」

「自己評価……そうなのかな? でも言っておくけど、だからって私は獣人を見下してるわけじゃないよ」

「分かっております。 ご主人は安易な道を選びません。 ご両親が亡くなった時も、葬儀の際に涙一つ見せませんでしたし」

「あ、あれはだって、私が取り乱したらお母さんとお父さんが馬鹿にされそうで」

と、ふと気付いた。
シンが私と出会ったのは高校二年生の時だ。
両親が死んだのはその前。

「シン? それ」

振り向くといつも通り彼は部屋の隅でうとうとと微睡んでいるようだった。

「……忘れないでください。 逆境を自身の力に変えることが出来るのはご主人の強さです。 ですが目先の感情に囚われずに、一歩引いて本質を考える癖もつけてください。 セイゲル様の愛情を御身に受ければきっと、ご主人は本当の意味での幸福を」

言葉の途中でその小さな白い体からしゅっ…と、なんというか┈┈┈┈急に力が抜けたような気がした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ