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獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話

第1章 痛かったら抜いてくれるらしい*




「──────琴乃」

軽く頬を叩かれ、私は嫌そうな顔をしたと……思う。
くくっとセイゲルさんが低く笑った。

「いくらでもイっていいが、気を失うな。壊れたかと思って驚いただろうが」

意識を失っていたのは一瞬らしい。
私の両脇に手を入れたセイゲルさんが、こちらの顔を覗き込んでいた。

「わ……私は……妊娠する、の……?」

彼は私の質問に答えなかったが、その代わりにふうと深い息を吐いた。

「……なあ、なんで人間と比べてこんなに力の差が歴然な獣人が、人間より劣ると世間で信じられていると思う?」

人間と獣人の住まうコミュニティは厳格に分けられている。
私が今いるこの場所────彼らが生活しているといわれている、高い塀の向こう。
そこへは一般人の立ち入りを固く禁じられていた。
テレビや動画で観る獣人は、大概の人間の要人の集まりに呼ばれるが、彼らは大きな体を折り、いつも人間に恭しく接していた。

「で、でも…知能面では確かに人よりも」

そう、一般的な獣人は知能が低いという事実は、学校でも早くから教わる事だ。
そのせいで、人間は、カーストが下層の獣人を飼い慣らしていると信じられている。
それを聞いた彼がくくっと喉を鳴らす。
皮肉めいた表情だが、なぜだかどきっとした。

「ここはお前らの世界とは大して違わねえだろう。俺らは人間の女がいなきゃ子孫を残せない。人間を滅ぼすのは簡単だが、そうなっちゃ困るんだ」

それはまさか。

ここはおそらく彼の家。
寝室らしい家具が揃っているが、そのどれもが巨大だ。

「この俺が阿呆にでも見えるか? 佐藤琴乃」

獣人と一部の人間は、世間を欺いている? 私が呆然として呟くと、セイゲルさんは片方の目の上にある、色の薄い眉らしきものをあげた。

「いいな。お前は淫乱な上に察しがいい。ついでに言うと白くて小さくて可愛い」

そんな言われたこともない褒め言葉に頬を染める余裕など無く、私の頭にあったのは別のこと。

「わ……私はもう、ここから出られないってこと?」

「ああ、琴乃はここで俺の子を産むんだ」

長年描いていた自分の夢がガラガラと崩れ去る。
慣れ親しんだ元の世界には戻れない。

脳内が真っ黒に塗り潰された私は今度こそ、今度こそ。

「あっ、おい」

抱き止められていた全身から力が抜け、現実世界からの逃避へと旅立った。


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