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獣人さんが住む世界で大っきいカレに抱き潰されるお話

第8章 終章「覗きとは違います、これは使命なのです!」*




私のご主人。
一緒に暮らし始めてからしばらく、私の前ではいつも笑顔でした。
学校からアルバイト先から帰って来ては、ご主人の部屋で寛いでいる私の姿を認めて、嬉しそうに話しかけてきました。

「あの、あのね。 美味しそうなご飯を見つけたんだよ! ネットで探して」

というか、ご主人は犬の私になぜか気を使ってばかりいました。
自分の卵かけご飯よりも、何倍も値の張るドッグフードを差し出すご主人の意図が分かりませんでした。
ただ異常に動物が好きなことぐらいは分かっていました。
飽きずに何時間も私を撫でるご主人は、私よりも溶けそうな表情をしていましたから。


けれどもある日に、なかなか入浴から出てこないご主人を不思議に思った私は、アパートの脱衣場で小さく吠えてみました。

「あっ、もう少しで上がるから!」

ご主人の声は震えていたので、私は構わずに戸を押しました。

「……シンもお風呂に入りたいの?」

いや、全然、全く。
ふるふる首を横に振る私にご主人は笑いました。
よく見ると目が赤いし、肌の所々が真っ赤です。
ご主人が現実やネットでからかわれていたのは知ってましたので、私はまたそんな類いが現れたのかと思いました。

「ね……ねえ、犬は鼻がいいよね、私はまだ臭いかな?」

(臭いといわれたのですか?)

私はご主人に問いました。

「じ、自分じゃ分かんないから。 私、気付かないうちに人に嫌な気分にさ、させてたのかな……? でも、お母さんの育て方が悪いってのは、分かんない。 だって私のお母さんはもういないから」

(ご主人はご両親のことを悪く言われるのを嫌がりますから)

浴場の端をチラリと見ると、いつもの三個100円の石鹸ではなく、新しいボディシャンプーが置いてありました。

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