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アパート

第5章 生い立ち

沙耶香の話を掻い摘んで言うと、どうやらこういうことらしい。

小学生の頃、同居する祖父から性的虐待を受けていたみたいだ。そして母親は、子供に関心がなく愛情を持って育ててはくれなかったようだ。あとの家族構成は聞いていない。

祖父の虐待と母親の愛情の無さから、家に帰りたくなくなり不良グループに属して、仲間の男達の家に泊まっていたらしかった。

そのような生活をどのくらい続けたかは分からないし、その後、高校はどうしたのかも聞いていない。

社会人になってからも精神が不安定で、男を好きになると仕事とかどうでもよくなり、仕事にも行かず、常に男と一緒にいてあれこれ世話を妬いては、そのうちに熱が冷め、直に別れるということを繰り返していたようだ。

その状態を見かねた親が、知り合いの、元精神科医にカウンセリングをお願いし、その元精神科医のカウンセリングを受けながら現在も生活をしているということだ。

元精神科医の先生は現在73歳くらいで、5年前くらいに緑内障か何か目の病気を患い、現在は失明してしまっているらしかった。

そして、その先生のカウンセリングを受けるのは、これが初めてではないみたいだ。以前、先生の目がまだ見えている頃に一時期カウンセリングを受けていたが、沙耶香の方が言うことを聞かずに止めていたらしかった。

沙耶香は、今その先生のおかげで介護の仕事はきちんとやっていけているようだ。

話を総合すると、たぶん沙耶香は、子供の頃の心の傷を、男を好きになることによって埋めるようになってしまった。その度合いが強すぎて、普通の生活ができず駄目になるような女性になってしまったようだ。

だから今は、特に彼氏がいる訳ではないんだと思う。そのカウンセリングの元精神科医に、男とは付き合うなと言われているということだと思った。その辺はハッキリしない。でも、男と付き合うと沙耶香が駄目になるのは間違いなさそうだ。それを、元精神科医の先生がカウンセリングで食い止めているということだと思う。だから、僕とも食事に行けないのだと思った。

僕は、沙耶香の今までの人生を気の毒に思った。

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