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お題小説 カレイドスコープ

第1章 kaleidoscope

 15

「………ましてやわたしなんかが口出しできる様な問題じゃないしね…
 どうにも出来なかったのよ」

「あ、い、いや…そ、それは…」

 本当はそんな茉優の言葉に対して俺は…
 何も返せないでいた。

 なぜならばその茉優の言葉の裏には、こんな俺の事をずうっと気に掛け、追い続けてくれていたという証しにも取れるから…

 だけど俺はあの昔…

 茉優の事は嫌いでは無かったけれども、こんな田舎が嫌で、いや、大都会東京に憧れていて…
 大学入学にかこつけて、茉優共々に全部を捨てて東京に逃げた男であったから、今更、どのツラ下げて帰ってきたら良いのか、そして茉優に会ったら良いのか、どうにも分からなかったのだ。

 あっ…

 そして今、あの絶望に墜ちた時にどうして茉優の存在に、いや、茉優に会いたくなったのか、その理由が分かったのである。

 それは茉優という愛しい存在感もあったのだが、しかしまたその茉優の背景、バックボーンの『建設業』という共通のキーワードがあったからだと思われるのだ…
 ただ、そんな事さえ忘れてしまったくらいにあの当時の俺は、途方に暮れ、そして予想だにしなかった人生という迷宮に彷徨ってしまっていたのであろう。

 だが、だけど今…

 偶然に茉優という過去から続く、愛しい存在に再会をし、こうしたまるで神様のお導きの如くに思い出の、いや、青春の甘酸っぱい全ての2人の思い出には必ずといっていいほどに関わってきたこの『神社』という2人の特別な場所で、こうして過去からのわだかまりを少なからずも解消できたのだ。

 そして俺はさっきまでの、いや、この田舎に帰って来た時からずうっと抱いていたモヤモヤとした想いや、変につまらない意地を張っていた見栄やプライド等々が…
 晴れ晴れして、軽くなっている事に気付いていた。

「ねぇ、今は何の仕事をしているの?」
 茉優はまた再び訊いてくる。

「あ、う、うん、実は、交通誘導系の警備員をさ…」
 見栄も変なプライドが無くなった今、俺は素直に、すんなりと言えたのだ。

「え、そうなの…
 じゃあ、もう、こっちに帰ってきたらいいのに」
 すると突然、そんな事を言ってくる。

「え?」

「ほら、そう、ウチの会社、村上建設にさ…」

「え、あ…」
 その茉優の言葉は正に青天の霹靂であり、目から鱗が落ちる意味でもあった…


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