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お題小説 カレイドスコープ

第1章 kaleidoscope

 16

「そうウチの会社、村上建設にさぁ…」

「え、あ…」
 その茉優の言葉は正に青天の霹靂であり、目から鱗が落ちる意味でもあったのだ。

「だってさぁ一級建築士等々の色々な資格持ってるんでしょう」
 それはゼネコンの現場監督をしていたから当然持っている。

「それってさぁ、ウチじゃ引く手あまたの最強の即戦力って事なのよ」

「あ、そうか…」
 急に俺の目の前がパァっと明るくなった様に感じてきた。

「はい決まりね」

「え、あ…」

「それにさぁ…
 ついでにさぁ…」
 すると急に茉優がそれまでの様子とはまるで一変したかの様に言い澱む。

「ん、ついでにって?」

「ついでにさぁ…

 わたしをさぁ…

 あのさぁ…」

 なんだ、なんだろうか?…

「ついでにさぁ…

 あ、あのさぁ…

 わたしをさぁ…」
 少し顔も赤らんできたようにも見える。

「あ、あのさぁ…
 ついでにわたしをさぁ…
 お、お嫁に貰ってくれないかなぁ…」

「えっ、あっ、な、なに?」

 すると手をギュッと握ってきて…

「お嫁に…
 わ、わたしの旦那さまになってくれないかなぁ…」
 恥ずかしそうに、そして消え入るかの様な小さな声で…
 そう囁いてきたのだ。

「お嫁?旦那さまに?え、あ、け、結婚って?」

 結婚ってことなのか?…

 俺はそれに、その茉優の突然の言葉に、一番驚いてしまう。

「あ、あのね…あのさぁ……………」

 どうやらバツイチの茉優は、父親の村上建設の後継者問題の絡みもあって、それなりの同じ業界のどこかの息子とお見合いをさせられそうなのだ…
 と、恥ずかしそうに語ってきたのである。

「でね…もうね、お見合いしたらさ、ほぼ決まりっていうか、半ば強制的な感じみたいなのよね」

 だけど茉優にはまだ9歳の娘がいるし、お見合いでは再婚したくは無いのだと…

「だったら、勇人が、勇人とまた仲良くなって…
 お嫁にもらってほしいの
 いや多分、お婿さんかもしれないけどね…」

 今日は、いや、今夜はいきなりの人生の急展開の夜みたいだ…

 昨日までの将来の見えない、無気力な毎日とは打って変わっての…
 色々な可能性のある展開を迎えた夜みたいだ。

 再就職の可能性…
 そしてこの愛しい過去からの存在感の茉優との再びの熱い想いに心に火が…
 火が点いたみたい。

 

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