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お題小説 カレイドスコープ

第1章 kaleidoscope

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 そして幼馴染の栄ちゃんに送ってもらい…
 10年振りに実家に帰ってきた。

 そして亡きばあちゃんの顔を拝み、感謝と慈しみの想いに浸りながら線香を上げ、久しぶりに母親と対面した。

「本当に全然連絡もしてこないでぇ…
 痩せたみたいね?
 ちゃんと食べてるの?
 彼女は?
 結婚の予定はないの?……」
 等々、一気にまくしたてられてしまう。

 そして俺はそんな母親の問いかけに…
「うん…」
「あぁ…」
 殆どぶっきら棒に応えていた。

 だがそんな母親との10年振りの対面は、田舎が故に隣近所や親戚等の弔問客がどんどん次から次へとやって来て、僅か五分程度で終えられたのだ。

「ふうぅ…」
 そしてひと息付けたのはもう夕方6時過ぎの頃であった。

「でも『夏祭り』とモロ被りだからさぁ、お通夜はいいけどお葬式はさすがにお祭りの次の日にズラしたわよ」
 と、母親はボソッと言ってきた。

 そのくらいにこの町にとっての『夏祭り』は特別で重要な存在なのだ…

「そうそう、ばあちゃんの部屋の片付けをしていたらさぁ、こんな懐かしいモノが出てきたのよ」
 そう言ってばあちゃんの部屋から筒状のモノを出してきた。

「あっ、これ」

「そうよねぇ、懐かしいわよねぇ…
 これ『万華鏡』よねぇ…」
 そう、その筒状のモノは『万華鏡』であった。

 その『万華鏡』とは…
 筒状の先から中を覗くと、色つきの小さいセルロイドかガラス片を散らした破片が 鏡の多重反射により美しい模様に見え,筒を回転,振動させると模様が次々に変化して見える一種の玩具。
 そしてまた『カレイドスコープ』とも英訳される。
 
「ほら勇人はさぁ、小さい頃からこの『万華鏡』が大好きでいつもばあちゃんに見せて貰っていたじゃんねぇ」

 確かにそうであった…
 幾重にも煌びやかに、キレイに変化するその模様が美しくて、なぜか俺の心を昂ぶらせてくるので大好きであったのだ。

 そしてこの『万華鏡』には青春の甘酸っぱい思い出もあった…

「今どきさぁ、この『万華鏡』って珍しいわよねぇ…
 はい、ほら勇人にあげるわよ、ばあちゃんの形見にしなよ」
 そう母親に言われて手渡され…
 素直に貰う事にして、とりあえずいつも身につけているショルダーボディバッグにしまう。

「あ、そうだ、今から栄ちゃん達と待ち合わせてるから…」

 

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