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Kalraの怪談

第32章 三十二夜目:よもつへぐい

☆☆☆
3年前の冬。俺はAとBという二人の親友と一緒に冬山に登ることにした。もともと俺たちは同じ大学出身で、山岳サークルの仲間だった。気が合って、卒業後もこうしてよく一緒に山に登っていた。

冬の登山は計画をしっかり立てることが大事だ。何度も集まって、俺たちは綿密な計画を練った。装備品もしっかり点検した。なにも、2千m級の山に登ろうというわけではない。もっと平易な山だったのだが、低い山だから安全なわけではないのだ。

そして、その日が来た。入念な準備をして、天気予報を確かめていったにもかかわらず、頂上近くで吹雪いてきてしまった。若干の躊躇が命取りだった。気がつくと一面が真っ白に染まり、俺たちはロストしてしまった。目標としていた山小屋の位置はおろか、それがどちらの方角にあるかもわからなくなってしまったのだ。

「おい!あれを見ろ」

はぐれないように必死に進んでいる中で、Aが叫ぶ。指差した方向を見ると、岸壁にくぼみがあった。こういうときはあまりジタバタしないのが定石だ。俺たちはとりあえずそこに避難することにした。

近づいてみると、幸いなことにくぼみというよりも洞窟に近かった。少し奥まで進めばだいぶ吹雪を凌ぐことができた。食料は予備も含めてだいぶ持ってきている。このとき俺達は吹雪がすぐに止み、山を降りることができると信じていた。

☆☆☆
しかし、その読みは甘かった。1日経ち、2日経ち、あっという間に吹雪に閉じ込められ3日が経った。俺たちは、空腹と疲れ、寒さでだいぶ弱っていた。

「寝たら死ぬぞ」、三文小説でよく聞く話だが、まさか自分がそんな状況に立たされるとは思わなかった。入山届は出していた。今頃は、捜索が始まっているはずだ。しかし、この吹雪では思うように救助活動も進んでいないのかもしれない。

俺たちは互いに話が途切れないようにしながら、必死に励ましあっていた。
そのうち、いつの間にかBが全く話をしなくなった。

「おい!B!B!!」

俺は揺すったが、Bはダラリとして応えない。Bの冷めつつある体。俺は生まれてはじめて人の死というのを実感した。

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