テキストサイズ

Kalraの怪談

第35章 三十五話🌕️:部屋の中の溺死体

☆☆☆
「ありゃ、不思議な遺体だったな。部屋の中にあるので、まるで溺死したようだった。」
Aさんが若い頃、まだ刑事になりたてだったとき、何が嫌だったかといえば、ご遺体の取り扱いだったそうだ。時間が経って腐敗が進んだご遺体や、電車に轢かれたご遺体も嫌だったが、最も憂鬱だったのが溺死体だった。

「溺死体っていうのはひどいもんだ。水を吸ってものすごく膨らむんだ。男でも女でも一見わからないようになる。最初見たときは夢に見そうだったな・・・・」

まあ、気持ち悪いだろうからあんまり詳しく描写はしないけど、とAさんは笑った。

「そう、あのご遺体は、まるで溺死体みたいに、ブヨブヨに膨れていたんだ。でも、発見され
たのは部屋の中だった。見た感じ、死後3日ってところだったな。」

数年前の6月中旬、都内S区の賃貸のワンルームマンションの一室でS.Iという名の20歳の男子大学生が発見された。発見時、彼は部屋のソファの上でうずくまるようにして死んでいた。室内には水気もなく、争った形跡などもなかった。6月の梅雨真っ只中で寒かったせいか、Sは室内着の上にニットの上着という随分な厚着をしていた。

通常考えれば、病死といった風だった。
しかし、ご遺体はこれまで見たどのような室内における病死体とも異なっていた。

「発見のきっかけは、大学に出てこなくなったことを心配した友人が訪ねていったことだった。何度呼び鈴を押しても出ない。それで扉を開けてみたら、すんなり開いたので中に入ったらご遺体を見つけた、ということだった。」

当初、所轄署の刑事により、ご遺体は、病死と何らかの事故死の両面から調べられ、最後は司法解剖に回された。

「まあ、この一体のご遺体だけなら俺らが出張ることはなかったんだがな・・・」
この事件に捜査第一課が関わることになったのは、この後、都内で連続して3体、同じようなご遺体が上がってきたからだ。いずれも室内なのに溺死の様相を示していた。

「死んだ時期もほぼ同じだった。4人の死亡推定時期は、6月12日前後とわかったんだ。」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ