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Kalraの怪談

第5章 五夜目:イヌカガミ

娘は、完成したイヌカガミを男が通う女のもとに送りました。
女はその鏡が気に入り、いつも持ち歩くようになったのです。

そして、女が鏡を受け取って10日ほどしたある日のことでした。月のない晩、男との逢瀬を終えて家に帰ろうとした時、女は野良犬に襲われ、帰らぬ人となりました。
一緒にいた、かの男も目の前で何匹もの犬に喰い散らかされる想い人を見て、気が触れてしまったといいます。

ここまではなんということのない、呪いの話です。

本当に恐ろしいのはこのあとです。

鏡は用をなしたあとも、その呪いを手放しませんでした。
喰い散らかされた女の死体から、唯一形のあるものとしてその鏡は女の家族に引き渡されました。
家族は女を失ったことから大いに悲しみました。鏡を見ると娘を思い出すということで、鏡をもとの娘のところに返すことにしたのです。
こうして、鏡は娘のところに戻りました。

娘はスソを知っていたので、その鏡をすぐさま河に流しました。
しかし、二ヶ月ほどした時、一匹の犬がその鏡をくわえて娘の家の前に座っているのを見つけました。
犬は娘を見ると鏡をおいて歩き去ったのです。
鏡は、また返ってきました。

次に娘はその鏡を人手に渡そうとしました。
質に入れ、質流れとしようとしました。
しかし、一ヶ月後、その鏡を買ってきたのは他でもない娘の母親だったのです。

次に娘は、その鏡を壊してしまおうとしました。
しかし、どんなに槌や石で叩こうと、決して割ることができなかったのです。

娘は途方に暮れました。
そう、スソをかけることはできても、スソを返すこと、『スソ返し』について、娘はほとんど何も知らなかったのです。

このままでは自分もイヌカガミに殺されてしまう可能性があります。

捨てることも、売ることも、壊すこともできぬのなら、と、
娘はこの鏡を人にあげることにしました。
すると、貰った娘達は決まって犬に食い殺されたり、犬に追いかけられて橋から落ちたりして死んでしまうのです。
そしてその後、必ず、鏡は娘のもとに返りました。

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