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Kalraの怪談

第45章 四十五夜目🌕️:精神病院にて

☆☆☆
その患者、Rさんが、Hの勤める大学病院に初診できたのは先週のことだった。
年は70代前半。身ぎれいにはしているが、化粧の様子がアンバランスで、若干の違和感を覚える。歩行は正常、目も合う。ここまでは、まあいい。

娘さんと思しき30歳くらいの女性に付き添われて来ていた。
初診票に目を落とす。おそらく娘さんが書いたのだろう。
『時折、家の中に変なものがいる、と言う。夫が知らない人になった、と訴える』
と書かれている。
特に身体的病の既往はない。これまで健康に過ごしてきたようだ。

「どうなさいましたか?」
Rさんは慣れない病院で緊張したのか、若干うつむき加減になる。ポツポツと話す言葉を総合
すると、次のようなことのようだった。

数ヶ月前から家に知らない人がいる。いる人は男1人である。
部屋の中でボーッと立っていたり、廊下の先にうずくまっていたりする。
それは、天井の隙間から覗いていることもある。
ほとんど声を出さないが、ときに声をかけてきて、夫である、と言う。でも、夫ではないことはわかる。
私が作った料理を食べたり、風呂に入ったりもする。
出ていってくれるように頼んだが、出ていってくれない。
いなくなることもあるが、すぐに戻ってくる。
などだ。

生活歴を聞くが、聞き出せたのは
「夫は酒飲みで、ひどい人だった。」
「私は子どもたちを守るために必死だった」
くらいであまり話をしてくれない。仕方なく、娘さんの方に話を振ると、

Rさんは20代で今の公務員である夫と結婚し、子供は2人。娘と息子。
Rさん自身パートで働いていたことはあるが、ほぼ専業主婦。
夫は普段はおとなしかったが、酒飲みで、大酒を飲んでは家族に手を上げることもあった。
そんな夫も65歳まで働いて数年前にリタイア。その後は、郊外で中古で買った家に夫婦二人で住んでいる。
息子、娘はすでに独立し、結婚している。実家であるRさん宅にはほとんど顔を出さず、連絡を年に数回とる程度。
息子は夫婦で海外で生活しているが、娘である今付き添ってくれている女性は、実家からそう遠くないところに住んでいる。

といったところだった。

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