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Kalraの怪談

第51章 五十一夜目:やどうかい

☆☆☆
道はどんどんと暗さを増していきます。私は何処を歩いているのか全く分からなくなっていました。姉もわかっているとは思えません。
とうとう私は恐ろしくなり、
『ねえ、お姉ちゃん・・・』と声をかけました。
その言葉が聞こえたのか、やっと姉は立ち止まってくれました。いつの間にか、右手には森があります。振り返ると、町の灯が少し先になっていました。大分町から外れたところを歩いているようです。行く先は真暗で、遠くには幹線道路でしょうか、街灯が立ち並んでいるのが見えました。

姉はその道にポツンと立っている街灯の下で立ち止まっていました。
『お姉ちゃん・・・』
私は本当に怖くて、帰りたくて、姉に言いました。
姉は立ち止まったまま右手の森をじっと見ていました。私もそれに気づいて森を見ました。
そして、ぎょっとしたのです。右手の道の少し先に鳥居が見えました。夕闇の中、くすんだ赤色の鳥居です。そして、普通、鳥居の先には参道やら狛犬やらがあると思うのですが、その鳥居の向こうはただただ暗い道が真っすぐ伸びているだけでした。
『呼んでるよ』
姉がふらふらとそちらに向かって歩いていったので、私は慌てて姉の服の裾を引っ張って止めました。
『ほら、だって』
私が止めるのを意にも介さないで、姉は進んでいきました。とうとう私は手を離してしまいました。姉はどんどんと鳥居に向かって歩いていきます。
そして、鳥居の前で立ち止まり、一度私の方を振り返りました。
それが、姉を見た最後でした。

私の目の前で、姉はまるで鳥居の向こうの闇に吸い込まれるように、溶けるように、ふっと消えてしまったのです。その瞬間、姉が何かを言おうと口を動かしたのが見えましたが、声は聞こえませんでした。
『お姉ちゃん!』
そう叫んだところで私の記憶は途切れました。

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