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Kalraの怪談

第51章 五十一夜目:やどうかい

☆☆☆
母親が亡くなってから、祖母は母親がわりとして、これまで以上に私達に深い愛情を注いでくれたので、私達は特に困ることはありませんでした。
ただ、やはり母親は恋しいもので、寝る前に布団の中で母のことを語り合うことが多かったのも確かでした。

そんなある日、季節は冬だったと思います。町のイベントか何かで子供会があり、私達は二人でそこに行っていました。お菓子がもらえるというのが当時は魅力的だったんですね。それで、会が終わるのが5時くらいでしたので、少し町外れの我が家に帰る頃には、あたりはすっかり、薄暗くなってきていました。まあ、暗いといっても別に山道や誰もいない畦道を歩いているわけではなく、商店街を歩いているのですが、それでも、私は祖母から聞いた『やどうかい』の話を思い出してしまい、ちょっと怖くなっていました。

でも、さすが3つ年上の姉はなんともないようで、ずんずんと商店街を歩いて行きました。私は置いていかれないように必死になってついていきました。

「あ!」
ふと、姉が声を上げました。
「どうしたの?」
私が聞くと、
「今、あっちの道にお母さんみたいな人がいた」
と姉は商店街を抜けた先の住宅地の四つ角を指で示したのです。私は姉の背中を見て、歩くのに必死でそんな先の方までは見ていなかったので、人影を認めることはありませんでした。
「お母さん?」
私が聞くと、姉は頷き、
「お母さんに似た人」
と言うのです。母親が生き返って歩いていた、というわけではないのはわかっているのですが、やはり母が恋しい気持ちがあったのでしょう。姉は、
『行ってみよう』とその姿を追って歩きはじめてしまいました。
私はどうすることも出来ず、ついていく事にしました。
普段は曲がらない住宅街の道を入り、姉は「あ、あっち」と言いながら、どんどん歩いていきます。
私は相変わらず、姉が見ていると言っている人影を見ることは出来ませんでした。というのも、姉を追うのに必死だったからです。

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