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Kalraの怪談

第52章 五十二夜目:かか切りの竹


次の日、早速、俺は役所に出向いた。物納の手続きは何かと面倒だったが、対応してくれた女性の係員は親切だったので、手続きをほとんど終了させることが出来た。
「ありがとうございます」
俺は感謝の気持ちで一杯になり、その女性に頭を下げた。
「いえいえ、また、いつでもご相談に」
笑顔で言っている途中、急に、その女性係員の顔が苦悶に歪んだ。

げふ、ぐええ・・・

突然口から血を吐き、グラリと体が横倒しになる。
2〜3回痙攣をし、そして、ぐったりと動かなくなった。
ほんの数秒の出来事だった。
「え?・・・」
一瞬、思考が停止する。

きゃあああ!!

横でおばちゃんが悲鳴を上げる。その悲鳴を皮切りに、やれAEDだ、救急車だと、役所の中はちょっとしたパニックになった。
結局、その女性係員は亡くなってしまったようだった。
警察の事情聴取を終え、俺は帰路についた。

なんだよ、あれ・・・

女性係員が口から血を吹き出したときの光景がまぶたに焼き付いている。

なんなんだよ・・・
落ち着かなくちゃ・・・。

普段飲まない酒でも煽ろうと思い、ビールでも買おうと、実家のそばの酒屋に寄った。夜が早いド田舎だが、まだ酒屋がやっていて良かった。
俺は缶ビール2本とつまみを買った。昔馴染の酒屋のおばちゃんに金を払う。
「どうしたんだい?父ちゃん死んで、東京から帰ってきたんかい?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ。相続とかの手続きが面倒で」
「ああ、あんたんところ、あの竹林があるしなー。」
「そうなんだよね。まあ、それについては目処は立ったんだけどさ」
俺はため息をついた。とてもじゃないが、昼間の出来事を話す気にはなれない。
「まあ、そういうことで、じゃあね、おばちゃん」
「ああ、まあ、元気だしなよ?」
おばちゃんはどう今の会話を解釈したのか、俺を励ます言葉をかけてくれた。

今日は早く寝よう。

俺は酒屋を後にした。しばらく歩いていると、『ドン』という腹に響くような大きな音がした。何かが爆発したようだった。
今、歩いてきた方向ー酒屋の方向だった。
俺は慌てて戻ってみた。すると、さっきまで自分がいた酒屋に大型ダンプが突っ込んでいた。何かに引火したようで、店からは火の手があがっている。

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