テキストサイズ

Kalraの怪談

第7章 七夜目:よくも

【よくも】

ある女性が私に語った、不思議な話。

都内、某区にあるコーヒーショップには、「出る」という噂がある。
これは、客の間、というよりも、従業員の間の噂。

そのコーヒーショップは有名なチェーン店であり、早朝から夜遅くまで営業をしている。
特に、「出る」のは夜間のことであり、夜シフトのアルバイトたちがよく噂をしていた。

例えば、M実は、夜シフトの際、店を閉め、片付けをし始めようとした時に、「すいません」とカウンターから女性の声がしたので慌てて振り向いたことがある。
もちろん、店の戸の鍵はしまっているので、客がいるわけがない。振り向いたところには誰もいなかった。

また、別の日、同じく夜シフト。閉店間際だったのだが、K子がコーヒーを準備して出したとき、客がいなくなっていた事がある。

注文を受ける際に勘違いをしたのだろうかとも思った(例えば、他の客が本当はひとつしか注文していないところを2つ注文したと勘違いしたなど)が、そもそも、店内に誰もいない以上、間違えようもないはずである。確かに、「ブレンドひとつ」という声を聞いた。女性の声だった。

聞こえる以外のこととしては、T夫だったが、赤い靴を履いた足だけが歩いているのを確かに見た、と言って騒いでいたことがある。T夫はふざけがちで、バイト仲間からもいい加減と思われていただけに、そのときにはみんな大して気にしていなかったが、M実やK子の話が広がるに連れて従業員たちの中には、幽霊が出る、と言い始める者が多くなってきた。

この店の店長は28歳の男性であった。このまま妙な噂が広がって、アルバイトがやめると言い出しては大変だと、自らが夜シフトに立つようにし始めた。もちろん、店長一人では店を回せないので、最低一人はアルバイトがつくのであるが、店長が夜シフトについてから、アルバイトたちが幽霊を視ることはなくなった。

店長は
「やっぱりみんなの気のせいだったんだよ」
などと言っていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ