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Kalraの怪談

第8章 八夜目:山の怪談

【山の怪談】

「あんの山には幽霊が出るっちゅうことだ
 道に迷っても声がする方には行っちゃなんねえぞ
 ついていったものはみんな死んでしもうたから」

まだ朝の早いうち、山に登る前に立ち寄った喫茶店でのことだった。
私の格好を見た、地元のご老人がこう話しかけてきた。

その老人が語ったのは、よくある山の怪談のようだった。

霧が立ち込め、道に迷ったとき、
「おーい、おーい」と声がする。
その声を頼りに歩いていくと、
 ガタガタ!
と足を踏み外し、崖下に真っ逆さま。

崖から飛び降りた自殺者が、仲間を増やすために声を出している、というような。

しかし、今の御時世、そんな幽霊が出るものだろうか?
私は老人に挨拶をする。
老人は、今日登るつもりだった山を示してくれた。
「この先、右だ、」

私は装備を確認し、山に登り始める。
日が少し高くなってきて、ジリジリと肌を照りつける。
長袖を着てきてよかった。

今日登る山はさほど高くはないが、あまり整備されておらず、
手付かずの自然に近い雰囲気が堪能できる。
一応地図は持っているが、道は一本しかないのは確認しているので、あまり取り出す必要もなかった。

確かに、山の幽霊や妖怪が出るとしたら、この山はふさわしい。

果たして、昼の休憩を取り、午後、下山を始めた頃に、本当に霧が立ち込めてきた。

こう霧が濃いと、コンパスや地図を持っていても、現在地が把握できない。
待てば晴れるのだろうか?

足元の道は、道と呼べるか呼べないかギリギリのものであり、むやみに歩き回れば、本当に遭難しかねない。

仕方がない、少し見通しが効くようになるまで待つか・・・。

私はザックから簡易椅子を取り出して腰を掛けた。

しばらくして聴こえてきた声に私は我が耳を疑った。
 「おーい、おーーい」
霧の中から声がする。

幽霊を信じているわけではないが、今朝の話を思い出して、背筋がゾッとした。

「おーーい、おーい」
声はだんだんと近づいてくる。

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