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Kalraの怪談

第59章 五十九夜目:花火

☆☆☆
俺の家はそこそこ小金持ちで、N県K町に別荘があったのよ。
そこに夏になると家族で行くわけ。
小さい頃・・・そうだなー、6歳くらいかな?
その年も別荘に行ったんだよ。毎年、俺達は花火大会に合わせて行くんだが、その時、俺、親の手を離しちゃって、一人で迷子になっちゃったんだよ。
縁日の屋台はどれも同じに見えるし、親は見つからねーしで、とうとう泣いちゃったんだよな。
そうしたら、朝顔柄の浴衣を着た、すっげーきれいなお姉さんが「大丈夫?」って声かけてくれたんだよね。
俺は子ども心に「キレイだなー」って思った。
そのお姉さんが俺の手を引いてくれて、あちこち探し回ってくれたんだけど、なかなか親が見つからなくてさ。
結局、その日はお姉さんと花火見たんだ。いやーなんか夢のように楽しかったんだよ。
で、最後に、お姉さんがさ、言ったんだよ。
「もし、また会えたら、一緒に過ごしてね」って。
多分、俺、うなずいたんだよな。
その日はどうやって家に帰ったか忘れちゃったけど、無事に別荘にたどり着いたんだ。
翌年、また、花火大会に行った。そうして、去年のことを覚えていたもんだから、俺、わざと親とはぐれたんだよね。そうしたらさ、また会ったんだ。『朝顔の君』に。

「朝顔の君?」

ああ、それは俺が勝手につけたあだ名。
そしてまた、俺達は楽しい時間を過ごしたんだ。
その翌年も、翌年もな。
でも、おれが11歳のときだったっけかな?
受験するってんで、夏に別荘に行かなくなったんだよね。
結局、受験が終わったら、今度はもう親と一緒に旅行、って年じゃないじゃん?それ以来行かなくなっちゃってさ。

で、大学卒業した後、就職とか上手く行かなくてくさっていた時、気分転換にって久しぶりに別荘に行ったんだよ。そん時は一人だよ?
まあ、これから先どうすっかなーとか考える時間?みたいなの欲しくてさ。
その時も、ぶらっと行ってみたんだ。花火大会に。
小さい頃とはずいぶん雰囲気が違っていたけど、屋台が出てて、賑やかな音楽が鳴っていて、遠くの湖の上に、どーん、どーんて花火が上がっては消えて、そういうのは変わらなかったな。

そして、出会ったんだよ。アイツに。

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