テキストサイズ

Kalraの怪談

第10章 十夜目:街の怪談ー電車にてー

だが、僕が本当に驚いたのは、その日の夕方だった。

当時、運動部に所属していた僕は、帰宅時は体力錬成のため、家まで走って帰っていた。都会の電車なので電車で三駅というのは、走っても45分位でつく距離であった。

走っていると、途中でパトカーが2台、それと救急車が1台、止まっているところに出くわした。人だかりができている。
物見遊山で人混みに混じってみていると、周囲の野次馬の話が耳に飛び込んできた。

「なんか、一人で死んでいたらしい」「変死だって」
「原因は?」「わからないらしいよ」
「一人暮らし?」「そうみたい。会社に来なかったからって、夕方に上司が来て、たまたま発見されたって」
「いつ死んだの?」「今朝早くらしい」
「病気?」「さあ?」

「あ、運び出されてきた」

ーマジか、今から運び出されるのか?

人の死体なんて初めて見る。僕は好奇心から、野次馬をかき分けて、前に行っていた。
救急隊が担架で人を運び出している。白い布がかけられているので、直接見ることはできない。

ーなんだ

と思った瞬間、布が何かの拍子にずり落ちて、死人の顔が見えた。
そこで僕は凍りついた。

今朝の男性だった。

右の頬の特徴的なほくろ。間違いなかった。

『さようなら』と言った男だった。

しかし、先程の野次馬の話だと、死んだのは、早朝。僕が会えるはずがない。

だったら、僕が見て、言葉をかわした『あれ』は何だったのだろうか。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ