
Kalraの怪談
第10章 十夜目:街の怪談ー電車にてー
【街の怪談ー電車にてー】
昔住んでいた地域を走るY線は、通勤時間帯には非常に混雑する路線だった。
当時、高校生だった僕は毎朝7時30分にこの電車に乗って学校に通っていた。大規模なターミナル駅の次の駅が自宅の最寄りだったことから、通学時間帯は混み合っており、座れることは殆どなかった。
しかし、その日は運よく、目の前の席が空いた。
夏休み明け、2学期も始まったところだったが、まだまだ暑い。立っているのは嫌な季節だった。
ラッキーと思い、その席に座る。隣は白い長袖のワイシャツを着た中年の会社員風の男性だった。高校がある駅までは、ほんの三駅であったが、楽ができることに僕は喜んでいた。
「君、高校生?」
突然、何の前触れもなく隣の男が話しかけてくる。
「え、はい」
僕は答えながら、『これはヤバイ席に座ったのかも』と思った。
普通に考えて、電車の中で隣り合っただけの見ず知らずの他人に話しかける人などいない。いるとすれば、それはどこかおかしい人だ。
まじまじ見ないように注意しながら観察すると、男性は40代後半か50代前半くらい。禿げているというと怒られるだろうが、頭髪は相当薄くなっていた。右の頬にちょっと目立つほくろがあった。
見た目はそんなにおかしくない。どこにでもいそうなサラリーマン風だ。
最初の質問から特に話が続くわけではなかった。男は、こちらを見ることもなく、じっと前を見ている。
立ち上がるのも何だし、僕は早く自分が降りる駅にならないかなと思っていた。あと、二駅だった。
最後の一駅。次で降りるところまできた。
良かった、あれ以上話しかけられなかった。
ところが、安心したのもつかの間、もうすぐ駅に着くというところで、男が再び口を開いた。
「さようなら」
どきりとした。駅に着くと、僕は男の方を振り返らずに一目散に扉から外に出た。
ーなんだよ、あいつ
電車のドアが閉まる。今自分が座っていた席が見える。そこは2つ空いていて、前に立っていた人が座ろうとしていた。
ー2つ?
あの男も同じ駅で降りたのだろうか?
僕はあたりを見回す。僕が降りる駅はそんなに多くの人が降りる駅ではなかったので、目に映る範囲にいるのが、おそらく降りた人、全員だ。
そこに、あの男の姿はなかった。
おかしなことがあるなと思いながら、僕は学校に向かった。
昔住んでいた地域を走るY線は、通勤時間帯には非常に混雑する路線だった。
当時、高校生だった僕は毎朝7時30分にこの電車に乗って学校に通っていた。大規模なターミナル駅の次の駅が自宅の最寄りだったことから、通学時間帯は混み合っており、座れることは殆どなかった。
しかし、その日は運よく、目の前の席が空いた。
夏休み明け、2学期も始まったところだったが、まだまだ暑い。立っているのは嫌な季節だった。
ラッキーと思い、その席に座る。隣は白い長袖のワイシャツを着た中年の会社員風の男性だった。高校がある駅までは、ほんの三駅であったが、楽ができることに僕は喜んでいた。
「君、高校生?」
突然、何の前触れもなく隣の男が話しかけてくる。
「え、はい」
僕は答えながら、『これはヤバイ席に座ったのかも』と思った。
普通に考えて、電車の中で隣り合っただけの見ず知らずの他人に話しかける人などいない。いるとすれば、それはどこかおかしい人だ。
まじまじ見ないように注意しながら観察すると、男性は40代後半か50代前半くらい。禿げているというと怒られるだろうが、頭髪は相当薄くなっていた。右の頬にちょっと目立つほくろがあった。
見た目はそんなにおかしくない。どこにでもいそうなサラリーマン風だ。
最初の質問から特に話が続くわけではなかった。男は、こちらを見ることもなく、じっと前を見ている。
立ち上がるのも何だし、僕は早く自分が降りる駅にならないかなと思っていた。あと、二駅だった。
最後の一駅。次で降りるところまできた。
良かった、あれ以上話しかけられなかった。
ところが、安心したのもつかの間、もうすぐ駅に着くというところで、男が再び口を開いた。
「さようなら」
どきりとした。駅に着くと、僕は男の方を振り返らずに一目散に扉から外に出た。
ーなんだよ、あいつ
電車のドアが閉まる。今自分が座っていた席が見える。そこは2つ空いていて、前に立っていた人が座ろうとしていた。
ー2つ?
あの男も同じ駅で降りたのだろうか?
僕はあたりを見回す。僕が降りる駅はそんなに多くの人が降りる駅ではなかったので、目に映る範囲にいるのが、おそらく降りた人、全員だ。
そこに、あの男の姿はなかった。
おかしなことがあるなと思いながら、僕は学校に向かった。
