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Kalraの怪談

第21章 二十一夜目:ゴローさん

☆☆☆
ゴローさんの話、というのは、学校の裏にある楠の下にあるぼろぼろになった百葉箱に、真夜中、『ゴローさん』宛の手紙を入れると、手紙に書いてある願いが叶うというものだった。

そもそも、真夜中に手紙を入れなければいけないということで、試してみた、という人はほぼ皆無だった。いたずら半分に昼休みに『ゴローさん』に手紙を書いていた人はいたけれども、特に何も起こりはしなかった。

高2の冬休み前のある日、私が親友のAちゃんと一緒に学校から帰っていると、Aちゃんが、
「私、今晩、ゴローさんに手紙を出そうと思う」
と言った。そして、怖いので、私にも一緒に来てほしいと言うのだ。
私は、その夜、Aちゃんとゴローさん詣をするために、家族に内緒で家を出た。Aちゃんとは、学校の近くのコンビニで待ち合わせていた。自分も怖かったが、ゴローさんに手紙を出すという、ちょっとしたイベントを楽しんでいた面もあった。

『真夜中』というのが何時を指すのか分からないが、おそらく12時だろうと考え、私とAちゃんは、11時30分頃に学校に侵入した。今のご時世では、防犯カメラなどがついていると思うが、私達が通っていた当時はそんなものも特についていなかった。

深夜の学校はどことなくいつもと違い不気味だった。非常灯に照らし出される昇降口を右手に見ながら、体育館裏にある百葉箱を目指した。
校庭の真ん中を横切ると誰かに見咎められる可能性もあったので、なるべく、校舎沿いを歩く。体育館の陰にたどり着き、やっと人心地付いた。

「ねえ、Aちゃん。何をお願いするの?」
私はこの時初めてAちゃんに願い事を聞いた。しかし、Aちゃんは言い淀んで、特に教えてくれはしなかった。その様子から、どうやら、恋や愛などといった浮かれた話ではないらしい、もっと切実な願いなんだということがわかった。

12時に近くなった頃、私たちは、体育館裏の百葉箱にたどり着いていた。一応懐中電灯は持ってきたが、街灯と体育館の非常灯の明かりでぼんやりと百葉箱を見ることができた。

Aちゃんは、「よし」と自分に言い聞かせると、まっすぐに百葉箱に近づいた。そして、扉を開ける。中にそっと手紙を置いて扉を閉めた。私は一連の様子を少し離れたところから見ていた。

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