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Kalraの怪談

第21章 二十一夜目:ゴローさん

扉を閉めたとき、私は何の気なしに百葉箱の裏にある数本の木に目をやり、そこでぎょっとした。髪の長い、白い着物を着た女性が、じっとAちゃんを見ていたのだ。
Aちゃんは何も気づかない様子で百葉箱から駆け戻ってきた。Aちゃんに一瞬目をやり、その「女性」から視線がそれた。もう一度、同じところを見たときには、すでにソレはいなかった。

気のせいだ。

私はそう思おうとした。今にして思えば、このときに何かしらの手を打っていれば、ああはならなかったかもしれないが、今更どうしようもない。

次の日、登校してみると、Aちゃんが眼帯をしているのに驚いた。どうしたのかと尋ねると、Aちゃんは昼休みにそっと教えてくれた。

「実は、うちの両親離婚してるんだよね。それで、今の父親、本当は父親とは呼びたくないけど・・・って、ママの恋人っていうか、そういう人。そいつが最悪なヤツで、酒飲んで暴力を振るったり、ママから小遣いせびったりなんだ。昨日、夜帰ったとき、たまたまあいつが起きててさ、それで、見つかって・・・」

その後は言葉を濁したが、要するに、殴られたのだろう。私はAちゃんのことを気の毒に思った。

「まあ、でも大丈夫。もう少しの辛抱だから」

Aちゃんは眼帯の顔に無理やり笑顔を作ってみせた。
異変は、その3日後ぐらいにあったと思う。Aちゃんの眼帯はすぐに取れたが、Aちゃんの顔は次第にやつれてきていた。でも、その割にはAちゃんは笑顔を絶やさなかった。笑顔、と一応書いたが、もっと、気持ちの悪い、ニヤニヤとか、ニタニタ、というような笑いが浮かんでいるのだ。

私とお昼を食べるときにも、Aちゃんはニヤニヤしており、あまり喋らなくなっていた。あのゴローさん詣から、一週間が過ぎた頃だったと思うが、一度だけ、Aちゃんが気味の悪いことを言うのを聞いた。

「もうすぐ、ゴローさんが来てくれるんだって・・・」

私はその時のAちゃんの顔を見て、ゾッとした。ニヤリ、というか、ニタリ、というか、とにかく凄絶というのはああいう表情なのだろうと思っていた。

その後、程なくして、Aちゃんは学校に来なくなってしまった。担任の先生は「風邪」と言っていたので、しばらく様子を見ていたが、1週間以上経っても登校しない。それで、心配になった私はAちゃんにメールしたり、電話をしたりしたが、全く音沙汰がなかった。

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