テキストサイズ

Kalraの怪談

第22章 二十二夜目:死者の音声

長い闘病生活に終止符が打たれた。家族は悲しくもありましたが、どこかほっとしたところもあったそうです。そして、お兄さんの体は、生前の彼の意志により、使える臓器は全て移植用として提供されることになりました。そんな風に最期の最期まで社会に貢献しようとしたところも、兄らしい、そうBさんは思ったそうです。

脳死を宣告されたその日には、心臓の他、全ての臓器が摘出されました。手術後、Bさんは「ああ、これで、本当に兄貴は死んだんだ」と思いました。

葬儀が済んで、両親とお兄さんの遺品を整理していたBさんは、ふと、あのボイスレコーダーの音声を聞いてみようと思いました。パソコンに取り込み、一番古いものからいくつか聞いてみていました。懐かしい兄の声がします。

そこで、妙なことに気がつきました。一番最後の録音の日付が、お兄さんが意識を失って脳死を宣告されたその日になっているのです。

「どういうことだと思う?」
BさんはAさんに尋ねました。まだ、Bさん自身もその音声を聴いていないそうです。
「何も録音されていないか、ただのノイズじゃないか?」
Aさんは言いました。しかし、Bさんは嫌な予感がする、と言ってAさんに、一緒に聞いて欲しいと言いました。

そこで、二人でその音声を聞いてみることになったのです。

ガガ・・・ガ・・・
『3月2日・・・』

「兄の声だ・・・」
Bさんは息を呑みました。かすれていて、ノイズも多いですが、確かに人の声が録音されています。

ガガガ・・・
『なん・・だ・・暗い、真っ暗だ・・』
ジジ・・ジ
『何を言っているんだ?
 おい、B
 ど・・こに・・・ ジジジ・・・ガガ・・いる?』
『や、・・まだ、・・まだだ・・・
 オレ・・・生きて・・・・』
『おい、やめ、ヤメロ、
 やめろ・・・
 やめろ』
ガー・・・ビビ・・ジー

「なんだ、これ・・・」
Bさんは顔面が蒼白になっていました。Aさんも冷や汗が出てきています。

『や、やめろ、おい!
 何・・・を言ってるんだ、』
ジジ・・ガ・・
『まだ、・・・まだオレは死んでない!』
『だ、誰か・・・』
ガガガ・・・
『た、たす・・・け・・て』
ビー!

最後にけたたましいブザー音が鳴り響き、音声はそこで途切れていました。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ