
Kalraの怪談
第23章 二十三夜目:ついてくる
「ヤバイ」
逃げられない、とAさんは咄嗟に思った。そして、とうとう荷物も全て放りなげ、更に全力疾走をした。
どこに逃げればいいか分からなかったのだが、この時、Aさんの脳裏によぎったことがあった。それは、かつて死んだ祖父から聞いていた、あの寺の話だった。
『あの寺はな、縁切り寺いうて、悪い縁を切ってくださるんじゃ』
縁切り寺
そこに行けば、アレからも逃げられるかもしれない。
そう思ったAさんは力の限り走った。そして、走りながら後ろを見ると、10メートルほど後ろを、例の女が今度は走っている。それも、死物狂いの表情で走ってくる。
しかし、不思議なことに全く足音がしない。息遣いも聞こえない。ただ、歯を剥き出し、目を見開いた状態でものすごい勢いで走ってくる。
「ひい!」
声にならない叫びを上げ、Aさんは走った。この時ほど、自分がふだん陸上部で鍛えていてよかったと思ったことはなかった。
『いいか、縁を切りたいものがあったら、寺ではこう唱えるんだ・・・』
寺に続く山道を駆け上がり、寺の山門をくぐる。背後からは足音は聞こえないが、ガサガサと木々の枝を揺らす音が聞こえ、それがアレが迫ってることをAさんに知らせた。
境内に入り、賽銭箱にしがみ付く。息が切れているが、祖父が教えてくれた文句を唱える。
「えんきろえんきろ、えんきろえんきろ」
「縁切ろ縁切ろ、縁切ろ縁切ろ」
賽銭箱にしがみ付くAさんの首筋に、さーっと風が当たったように感じた。そして、あの嫌な気配が消えた。
Aさんが恐る恐る後ろを振り返ると寺の山門の外、あの女が立っていた。
息を飲んでいると、見る間にその女性は消えていった。
「あと、もう少しだったのに・・・」
という言葉だけが聞こえた気がした。首筋に生暖かいものを感じて、ふと手を当てると、手にはべったり血がついていた。
首筋が横一文字に浅く切られていたのだった。まるでかまいたちの様に・・・。
逃げられない、とAさんは咄嗟に思った。そして、とうとう荷物も全て放りなげ、更に全力疾走をした。
どこに逃げればいいか分からなかったのだが、この時、Aさんの脳裏によぎったことがあった。それは、かつて死んだ祖父から聞いていた、あの寺の話だった。
『あの寺はな、縁切り寺いうて、悪い縁を切ってくださるんじゃ』
縁切り寺
そこに行けば、アレからも逃げられるかもしれない。
そう思ったAさんは力の限り走った。そして、走りながら後ろを見ると、10メートルほど後ろを、例の女が今度は走っている。それも、死物狂いの表情で走ってくる。
しかし、不思議なことに全く足音がしない。息遣いも聞こえない。ただ、歯を剥き出し、目を見開いた状態でものすごい勢いで走ってくる。
「ひい!」
声にならない叫びを上げ、Aさんは走った。この時ほど、自分がふだん陸上部で鍛えていてよかったと思ったことはなかった。
『いいか、縁を切りたいものがあったら、寺ではこう唱えるんだ・・・』
寺に続く山道を駆け上がり、寺の山門をくぐる。背後からは足音は聞こえないが、ガサガサと木々の枝を揺らす音が聞こえ、それがアレが迫ってることをAさんに知らせた。
境内に入り、賽銭箱にしがみ付く。息が切れているが、祖父が教えてくれた文句を唱える。
「えんきろえんきろ、えんきろえんきろ」
「縁切ろ縁切ろ、縁切ろ縁切ろ」
賽銭箱にしがみ付くAさんの首筋に、さーっと風が当たったように感じた。そして、あの嫌な気配が消えた。
Aさんが恐る恐る後ろを振り返ると寺の山門の外、あの女が立っていた。
息を飲んでいると、見る間にその女性は消えていった。
「あと、もう少しだったのに・・・」
という言葉だけが聞こえた気がした。首筋に生暖かいものを感じて、ふと手を当てると、手にはべったり血がついていた。
首筋が横一文字に浅く切られていたのだった。まるでかまいたちの様に・・・。
