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Kalraの怪談

第23章 二十三夜目:ついてくる

☆☆☆
高校生だったAさんは、陸上部に入っていた。ある冬も押し迫った日、部活で帰りが遅くなり、日も暮れかけた時、この寺の近くの通りを一人でとぼとぼと歩いていた。家もまばらな田舎道、そのT字路になっているところを左折した。あと、家まで1キロ半ほどある。いつもなら自転車を使うところだが、運悪く朝、パンクをしている事に気づき、今日は無理やり歩いて登校した。この暗い道をまだ歩くのかとうんざりしている時、ふと、後ろを振り返った。

100メートル以上あるだろうか、電柱にある電灯に照らされて、この季節には不似合いなほど薄着に見える白いワンピースを着た女性が立っているのが見えた。
なんの気なしに見ると、ふと顔を上げたその女性と目が合った気がした。もちろん遠いので、気のせいかとは思うのだが、どうにも目が合った気がしてならなかったのだ。

なぜかゾッとしたAさんは、前に向き直り、ズンズンと進み出した。人気がない田舎道に、じっと立っている女性というだけでなんだか怖いのだが、それだけではない何かの予感めいたものを感じていた。

とにかくあの女性から離れようと自然と足が早くなった。

しばらく歩き、また、見るとはなしに後ろを振り向く。すると、先ほどの女性が立ったままの姿勢だが、さっきの距離より近いところに立っているように見えた。歩きとはいえ、Aさんは全力で進んだにも関わらず、ただ立っているように見える女性が近づいているのだ。

気味が悪くなったAさんは、さらに歩調を早め、歩き出した。そしてしばらく歩くとまた振り返った。果たして、その女性はさらに近づいている。日はすっかり暮れて、一定距離にポツンポツンと灯る街灯にぼんやりと照らされるワンピースの女性。変わらず、ただ立ち尽くしているにも関わらず、近づいてくる。

Aさんはとうとう走り出した。音もなくあの速さで近づくものは人外のものに違いない。そう直感した。

陸上部のAさんが本気を出して走った。夜道にAさんの走る激しい足音だけが響く。そして、振り返るのだが、その女性はさらに近くまできていた。しかも止まった姿勢のままで・・・。

その距離はもう、Aさんの後方20メートルほどまで迫っていた。よく見ると、白いワンピースは所々がドロで汚れ、腰まである髪の毛はばっさりと顔の前にかかっていて、その表情を見ることもできない。そんな女性がただ立っていた。

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