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自殺紳士

第1章 Vol.1:疲れた心

【疲れた心に】

「一寸、待って」
黒い、喪服のようなスーツを着た男が
私の腕を掴んだ

突然、見ず知らずの男に腕を掴まれた私は
驚いて腕を振り払って逃げる

「待って!」

男は追いかけてくる
私は急いで路地を曲がった
ここを抜ければ大通り
そうすれば、男も追いかけてこないだろう

大通りに出ると、
人の波、たくさんのヒト、ヒト、ヒト・・・

『オカシイな』

私は呟いた
オカシイ

私はこの景色はキライだったはず
みんな誰のことも見ていなくて
前を向いているのか、下を向いているのか

誰もが、誰も見ていなくて
自分のことも見ていなくて

そんな漣のようなヒトの群れ

私はキライだったのに

怖くなったら、ここに来ていた

足が震える
震える膝を両手で押さえ、
弾んだ息を整える

『オカシイな』
言葉とは裏腹に
涙がこぼれた

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