テキストサイズ

自殺紳士

第1章 Vol.1:疲れた心

「君、大丈夫?」
誰かが声をかけてきた

見上げると、
さっき私の腕を掴んだ男

驚いたが、逃げる気になれなかった
体が、もう動かなかった

当然だ、
私の体はすでに限界を超えていた
ツカレ果てていた

私の心はすでに事切れていた
すり減って、なくなっていたのだ

「良かった。間に合った」
男は嘆息した

男が誰なのか、わからなかった
ただ、ひとつわかったのは、
男が、他の誰とも違って
『私』を見ていることだった

『ああ、この人は知っていたんだ』
私が、あそこで死のうとしていたことを

男は『私』を見ていた

奇妙なことに、声をかけたはいいものの、
どうしていいか分からない、といった様子を見せる
しばらくして、やっと、一言だけ言った

「良ければ、私と話しませんか?」

『どうして?』

・・・そう、どうして?
なんで、私に・・・

「それが私の役割ですから」
男は笑って手を差し伸べてきた

私はおずおず、その手を取る
そして、

ああ、人の手は温かいな、と思った

ストーリーメニュー

TOPTOPへ