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自殺紳士

第17章 Vol.17:逃げるひと

俺がこんなことを感じている傍らで、相変わらず青年は、
『命あっての物種とかって言いますし』とか、
『もっと、あなたが得意なこととか、勝てる所あるかもですし』とか、
なんだか三流カウンセラーみたいなありきたりなアドバイスを色々並べ立てていた。

そんな言葉を聞いていたら、俺は、なんだか笑えてきた。
馬鹿らしく、馬鹿らしくなって
本当に、笑えてきた。

そして、気がつくと俺は、手を伸ばして青年の手を握っていた。

どうやら、いつの間にか、随分時間が経っていたみたいだった。
空が、薄く白み始めていた。

どこかから鳥のさえずりも聞こえる。

山の稜線を朝日が割って
俺の影を地面に長く伸ばした。

そして俺はここが、
森の一本道なんかじゃなくて、
広々とした草地だったのに気づく。

清涼な風が、俺の頬を撫でて過ぎる。

朝日が闇を払って
視界が開ける。

この時、俺は、
生まれて初めて、
世界はなんてきれいなのだと、
そう、思っていた。
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