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自殺紳士

第2章 Vol.2:理由のない命

私は、財布に1万円を入れて、
 行かれるところまで行こうと思い、電車に乗った。
 行かれるところまで行って、そこが終焉だ。

その電車の車内で、
 この男に会った。

「ここ、いいですか?」
 適当に乗った地方のローカル線。向かい合いの席の真向かいに男は座った。
 電車は空いているのに、わざわざ私の前に座った。

喪服みたいな黒色のスーツを着ている。髪の毛を端正に整えている。
腕時計をしていない。かろうじて黒ではないネクタイをしている。
手荷物もない。

12時に近い地方のローカル線には不似合いな男だった。
職業はなんだろう?服の生地は良いものに思えたから、金はあるのだろう。

私は営業職だけに、ふと詮索してしまう。

私は男を一瞥する間に、そんなことまで考えていた。
 ただ、別に話すこともないので黙っていた。

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