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自殺紳士

第11章 Vol.11:いらない人

・・・?
男性の答えはワタシが想像したどのセリフとも違うものだった

「私は死のうとなんてしていなかった。
 ただ、苦しいのを抑えようとしただけだった」
「どう考えたかはわかりません
  でも、あなたの部屋からは死の気配がしたんです」

それから男性は不思議な話をした
 ずっと前に自分も自殺をしたこと
 そのときに神様に会ったこと
 神様から自殺を止めるように言われたこと
 でも、何人の人の自殺止めればいいかを思い出せないこと
 神様から力をひとつもらったこと
 だから、死にたい人がいるのがわかる、ということ

ワタシはこの信じられない話を
 それでも信じていた

たしかにワタシは死のうとはしていなかった
 でもそれ以上に生きようとしていなかったのだ

男性がワタシの自殺を止めるのが遅れたのは
 ワタシが直前まで死のうとしたわけではなかったかららしい

 錠剤を飲みながら
 「生きていなくてもいい」
 そう思ったときに
 男性に死の気配が伝わったのだった

「遅くなってすみません」
男性は頭を下げた

「いいの」
ワタシはコロンと寝返りをうち
 男性に背を向けた

この人は誰で
 なんでこうしているかわからないけど

役割ではないワタシを
 見ている人だと思えた

でも、ワタシはそういう人とどう話していいか
わからなかった

「2〜3日で退院できるそうです」
男性は言い添えた

ワタシはずっと壁を見つめていたが、
 男性は出ていこうとはしていなかった

1時間近く経っても
 男性はそこに居た

「ワタシ・・・要らない人なんです」

ワタシは話をしていた
 壁を向きながら
 人に話をしていた

長い間胸の中にしまわれていて
 もう腐りかけていた想いだった

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