
自殺紳士
第17章 Vol.17:逃げるひと
「逃げるって、ダメ、なんですか?」
青年が言った。
不思議な、ものを見た時みたいな、そんな口調。
「狭くて、息苦しくて・・・そういうところから、逃げちゃうのって、
ダメなんですか?」
それは、何の気なしに発した言葉のようだった。
「そ・・・それは・・・ダメだろ・・・」
俺は言った。言ったけれども。
戦って、勝つ
人よりも、上にいる
たったひとつしかない勝利条件
まるで平均台の上を歩くような狭窄したルート
落ちたら復帰できない、狂った競技
それは、青年が言うように
『狭くて、息苦しいところ』
のように、確かに感じられた。
「なんか、ほら、こう、もっと違う生き方とか、
あるかもしれないじゃないですか」
不思議な青年は、いとも簡単にそう言ってのけた。
そして、俺を力づけようとしているのか、
手を差し伸べてくる。
「ね?車もあるし、違う道を走ってみましょうよ」
なんだろう、なんてことがないアドバイスのようにも思える。
逃げたっていいじゃないか、
そこで戦わなくてもいいじゃないか、
あなたらしく生きればいいじゃないか・・・
ありふれた、言葉のようにも思える。
でも、だけど・・・
その時、『ああ、そうか』と、俺は思った。
この青年は、本当に俺とは違うところに住んでいるんだって。
勝者はひとりで、その他は敗者で
敗者は惨めで、そうあってはならなくて
それが当たり前の世界
俺がずっと住んでいたそんな世界とは違うところに
この青年はいるのかもしれない
俺の目には狭い一本道に見えているこの世界が
この青年には広い広い野原にでも見えている・・・のだろうか?
だからこそ、この、呑気に微笑む青年の顔を見て
俺は、思ってしまったのだ。
世界は、広いのかもしれない、と。
青年が言った。
不思議な、ものを見た時みたいな、そんな口調。
「狭くて、息苦しくて・・・そういうところから、逃げちゃうのって、
ダメなんですか?」
それは、何の気なしに発した言葉のようだった。
「そ・・・それは・・・ダメだろ・・・」
俺は言った。言ったけれども。
戦って、勝つ
人よりも、上にいる
たったひとつしかない勝利条件
まるで平均台の上を歩くような狭窄したルート
落ちたら復帰できない、狂った競技
それは、青年が言うように
『狭くて、息苦しいところ』
のように、確かに感じられた。
「なんか、ほら、こう、もっと違う生き方とか、
あるかもしれないじゃないですか」
不思議な青年は、いとも簡単にそう言ってのけた。
そして、俺を力づけようとしているのか、
手を差し伸べてくる。
「ね?車もあるし、違う道を走ってみましょうよ」
なんだろう、なんてことがないアドバイスのようにも思える。
逃げたっていいじゃないか、
そこで戦わなくてもいいじゃないか、
あなたらしく生きればいいじゃないか・・・
ありふれた、言葉のようにも思える。
でも、だけど・・・
その時、『ああ、そうか』と、俺は思った。
この青年は、本当に俺とは違うところに住んでいるんだって。
勝者はひとりで、その他は敗者で
敗者は惨めで、そうあってはならなくて
それが当たり前の世界
俺がずっと住んでいたそんな世界とは違うところに
この青年はいるのかもしれない
俺の目には狭い一本道に見えているこの世界が
この青年には広い広い野原にでも見えている・・・のだろうか?
だからこそ、この、呑気に微笑む青年の顔を見て
俺は、思ってしまったのだ。
世界は、広いのかもしれない、と。
