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自殺紳士

第17章 Vol.17:逃げるひと

うまく、いかない
いかなかったよ
全然、いかなかった

こんなはずじゃなかった
俺はもっとできると思っていた

なのに、どんどん同期と差が開いて
置いてかれて・・・

ボロボロと、涙が溢れた。
涙は嗚咽になって、そして、いつしか俺は号泣していた

もう、言葉になんて、ならなかった。

どこで間違えたんだ?
どこでだよ?

なんで、あいつらはあんなにうまくいっていて
俺は、ここで這いつくばって泣いてるんだ?

見てはいないけれども、青年の気配を感じた。
そいつは、俺と一緒にしゃがみ込んでいるみたいだった。
同じ目線でいるのが、なぜだかわかった。

「すいません・・・僕はあなたのお仕事やったことがなくて
 どうしたらうまくいくのか、わからないんです
 そんなに悔しそうにしているのに
 辛そうにしているのに」

悔しい・・・悔しいよ、悔しい

辛いから、こんな気持ちになりたくなかった
なりたくなかったから必死で、必死で俺は・・・

『逃げていた』

不意に浮かんだその言葉は、
俺の胸に、深く突き刺さった。

『逃げていた』
営業成績が上がらなくて、同期が上手な方法を教えようとした時も
自分がその同期より劣ってると認めたくなかった

『逃げていた』
昇進試験のとき、真面目に勉強して落ちたら自分が馬鹿だと証明するような気がして
わざと用事を入れて勉強できない口実を作った

『逃げていた』
大口の顧客を獲得するチャンスがあっても、失敗して恥をかくのが嫌だったから、
わざと違う顧客とのミーティングの予定を入れていた

ずっと、ずっと、ずっと・・・
できない奴だと思われることから『逃げていた』

はは・・・
 ははは・・・

そうだったじゃん
そうだったんだよ

何ら、努力してない
 逃げることに全力投球で
 こんな奴、認められるわけがない

それを人のせいにして
 周りを見る目のない馬鹿だと決めつけて、
 そしてまた『逃げていた』

逃げて、逃げて、逃げて、
逃げ切れなくなって、追い詰められて
それで、死ぬ・・・なんて・・・

「もう、手遅れだ・・・」
言葉が口を吐いて出た

「こんなに差が開いたら、もう、埋められない
 逃げ続けた時間は戻らない・・・」

間違い続けた選択肢が絶望になって膨らんで
俺を押しつぶそうとしていた。

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