
ふかひれ【3ページ短編】
第1章 お江戸の夜
江戸の闇の中を走る男たち
ちょうど岡っ引きの親分、耕吉が下っ引きの安二郎を引き連れて夜な夜な警らがてらぶらぶらしていたところ、薄暗い路地裏からさささっと逃げるように駆け出して走り去る怪しい人物を追いかけていた
「じゅうぶん気を付けるんだぜ、安!
あいつがここ数日江戸を賑わかせてる下手人だったら鬼のような力を持ってるらしいからな!」
「はい、親分!なんでも仏さんは手足をもぎ取られちまったそうで、えげつねぇ」
「ちげぇねぇ、お館様から見廻りを増やせと言われて夜な夜な出回っちゃあいるが、いざ出会うとなると恐ろしいもんだ」
ふたりが小走りに追っていたがとうに行方はわからなくなっていた
そんな鬼のような怪力な男と出くわすくらいなら何事もなく見廻りを終えたほうが良かったので耕吉は見失ってほっとした
「見失っちまった、安よ?仕方ねぇから今夜は夜鳴きそばでも食って帰るとしようや」
ふたりが水路沿いの柳の下にいつも出てるそばやを探していると突然バシャン!と身投げしたような水音が聞こえた
「親分さん!」
「わかってらぁ!」
幾分泳ぎに自信のあった耕吉は迷うこと無く川へ飛び込んだ
非力な安二郎はおっかなそうに川面を眺めるしかなかった
夜の川面をバシャバシャ激しく跳ね上がる
安二郎がさっと手を伸ばすと耕吉ががっちり握って引き上げてもらった
耕吉が担いで上がってきたのはひとりの髪の長い女であった
意識はあるようだが仏さんのように顔が青ざめてる
耕吉が自分の長着を絞ってるあいだ、安二郎が自分の羽織を女にかけてやった
「亭主と何があったか知らねぇが、あの世にいったところで何も変りゃあしねぇもんだぜ?」
「親分さん、あっちに夜泣きの提灯がありますぜ、おいらがこっちへ呼んで来ますんで
すぐにあったけぇもん用意させますんで」
そういって安二郎は半裸のまま駆け出していった
ちょうど岡っ引きの親分、耕吉が下っ引きの安二郎を引き連れて夜な夜な警らがてらぶらぶらしていたところ、薄暗い路地裏からさささっと逃げるように駆け出して走り去る怪しい人物を追いかけていた
「じゅうぶん気を付けるんだぜ、安!
あいつがここ数日江戸を賑わかせてる下手人だったら鬼のような力を持ってるらしいからな!」
「はい、親分!なんでも仏さんは手足をもぎ取られちまったそうで、えげつねぇ」
「ちげぇねぇ、お館様から見廻りを増やせと言われて夜な夜な出回っちゃあいるが、いざ出会うとなると恐ろしいもんだ」
ふたりが小走りに追っていたがとうに行方はわからなくなっていた
そんな鬼のような怪力な男と出くわすくらいなら何事もなく見廻りを終えたほうが良かったので耕吉は見失ってほっとした
「見失っちまった、安よ?仕方ねぇから今夜は夜鳴きそばでも食って帰るとしようや」
ふたりが水路沿いの柳の下にいつも出てるそばやを探していると突然バシャン!と身投げしたような水音が聞こえた
「親分さん!」
「わかってらぁ!」
幾分泳ぎに自信のあった耕吉は迷うこと無く川へ飛び込んだ
非力な安二郎はおっかなそうに川面を眺めるしかなかった
夜の川面をバシャバシャ激しく跳ね上がる
安二郎がさっと手を伸ばすと耕吉ががっちり握って引き上げてもらった
耕吉が担いで上がってきたのはひとりの髪の長い女であった
意識はあるようだが仏さんのように顔が青ざめてる
耕吉が自分の長着を絞ってるあいだ、安二郎が自分の羽織を女にかけてやった
「亭主と何があったか知らねぇが、あの世にいったところで何も変りゃあしねぇもんだぜ?」
「親分さん、あっちに夜泣きの提灯がありますぜ、おいらがこっちへ呼んで来ますんで
すぐにあったけぇもん用意させますんで」
そういって安二郎は半裸のまま駆け出していった
