テキストサイズ

Injured Heart

第15章 生まれた日

【One Snowy Day】

都会には珍しい細かな雪が舞い散っている
底冷えする日だった

灰色の色彩を帯びた街に
 白い息を吐く人たちが歩く

雪一は駅のホームで電車を待っていた
モノトーンの景色は
 雪一に自分が生まれた日のエピソードを思い出させた

「あなたが生まれた日は
 その年最初の雪が降った日なのよ」

だから「雪一」だと
母は言った

灰色の空から視線を落とすと
マフラーを幾重にも巻き
 濃紺のコートを着込んだ女子学生が
向かいのホームにいるのが視えた

手には毛糸の手袋
 それでも寒いのか、時折両手を口元に当てる

向かいのホームに電車が来る
 電子的な女声が響く
その時、なんの前触れもなしに雪一がふと足を前にすすめる

「おい!」

突然、肩を強く掴まれる
雪一が振り返ると
浅井がいた

「何をぼーっとしているんだ」

怒ったような浅井の声に
雪一はやっと我に返った

目の前を向かいのホームに入った
電車が過ぎる
さっきの女子学生はそこにはいなかった

「ごめん」

雪一は謝った
が、眼はもう誰もいない向かいのホームを見ていた

「お前は・・・」

浅井はため息をついた
こういうとき、
どういうわけか雪一は傷ついて見えるのだ

それでも、何も話してくれない
届かないのだ

浅井がそんなことを考えているうちに
雪一の表情は
いつものとおりに戻っていた

ストーリーメニュー

TOPTOPへ