
Injured Heart
第16章 行くところ
【That winding road leads to someone】
「みんな、行くところがあるんだ」
学ラン姿の先輩は言った
胸に昏い大きな穴が視える
涙のように赤黒い血が
目からこぼれる
「帰るところもさ」
吹く風が温み
花の香りが舞い散る
咲く花々よりも早く
人は明るい衣服を身に纏う
雪一は温かな桜の木にもたれ
枝の先のつぼみを見つめた
先輩は黑くうねりあがる桜の根に
腰を掛け かすかにうなだれる
「あーあ、うまくいかねえな」
「俺なんかよりもっと不幸な奴もいるってのに」
雪一は応えるすべを持っていなかった
先輩がすべての事情を話してくれているわけでもない
話してくれたとしても
どうすることもできないように思う
「お前、将来どうするの?」
ふと、先輩が雪一に聞く
『特には…』
あまりにも気の利かない答えしか口にできない
「俺もだ」
「根がない樹には花は咲かない」
「だから来年も…」
言いかけて残りの言葉がため息に混ざる
見下ろす広場では
野球部の連中が練習をしている
若干間延びした声が遠くに聞こえる
雪一は預かったものを渡す
何の変哲もない寄せ書き
卒業式に来なかった先輩に
渡しそびれたものだった
「いつでも遊びに来てください、ってよ」
ハハ…うつむいて軽く笑う
『卒業式に会えないの、残念がってましたよ』
雪一が言う
本当のことだった
ふいに先輩が雪一の顔を振り仰いだ
黒い涙が止まっている
もう春が近い
「みんな、行くところがあるんだ」
学ラン姿の先輩は言った
胸に昏い大きな穴が視える
涙のように赤黒い血が
目からこぼれる
「帰るところもさ」
吹く風が温み
花の香りが舞い散る
咲く花々よりも早く
人は明るい衣服を身に纏う
雪一は温かな桜の木にもたれ
枝の先のつぼみを見つめた
先輩は黑くうねりあがる桜の根に
腰を掛け かすかにうなだれる
「あーあ、うまくいかねえな」
「俺なんかよりもっと不幸な奴もいるってのに」
雪一は応えるすべを持っていなかった
先輩がすべての事情を話してくれているわけでもない
話してくれたとしても
どうすることもできないように思う
「お前、将来どうするの?」
ふと、先輩が雪一に聞く
『特には…』
あまりにも気の利かない答えしか口にできない
「俺もだ」
「根がない樹には花は咲かない」
「だから来年も…」
言いかけて残りの言葉がため息に混ざる
見下ろす広場では
野球部の連中が練習をしている
若干間延びした声が遠くに聞こえる
雪一は預かったものを渡す
何の変哲もない寄せ書き
卒業式に来なかった先輩に
渡しそびれたものだった
「いつでも遊びに来てください、ってよ」
ハハ…うつむいて軽く笑う
『卒業式に会えないの、残念がってましたよ』
雪一が言う
本当のことだった
ふいに先輩が雪一の顔を振り仰いだ
黒い涙が止まっている
もう春が近い
