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Injured Heart

第2章 夏の日

公園のベンチで二人は並んで座っている
「高村君は優しいのね」
ミサはポツリとつぶやいた
高村と呼ばれた少年は座ったまま
彼女の顏を見るでもなく うなづくでもなく
ただ 彼女の肩をちらりと見た

彼の目にはそこに鮮血を滴らせるほどの
生々しい傷が見えていた。

「どうして、そこにいてくれるの?」
少女はまた尋ねる
夕日が沈みかけている公園は人気がない
時折入り口近くをサラリーマンらしき人影が横切る

高村はまた下を見る
『僕は優しくはないよ』
『目の前で人が自分を傷つけそうだったら止めるだろう?』
『ガラスのコップに入った水を目の前で倒そうとされると止めるのと同じ』
『だから僕は優しくない』

「よく…分からないわ」
ミサは髪をかきあげ、頭上の大樹の梢を見上げた。
薄暗くなりつつある中で、緑は黒色に近い色に見える

『この場所は好きなんだね』
「ええ」
「子供の頃、良く遊んだのよ」
『そうか』

静かに、ただ時間が過ぎていく
高村はまた少女の肩に目をやった

血は止まっていた
心なしか傷は先ほどよりも小さくなっていた

『もう少し、こうしていようか』
「ええ」

涼しい風が吹いてくる
夏の夜の清涼な気配が辺りに立ち込めている
高村は蚊に刺されないといいなと
思った

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