
Injured Heart
第18章 古い傷
【She has old wounds】
高村雪一はよく、町の図書館を利用する。
その町の図書館は小さくて、あまり本も充実していない。
座れる椅子も少ないことから、必然的にいる人も少なかった。
本棚が密集していて、あまり人の姿を見なくても済む。
それが、彼がここを気に入っている理由だった。
彼女の存在に気がついたのは、高村が中間試験の勉強をしはじめてしばらくしてからのことだった。
ある時、ふと顔を上げると、
視界の端にいる、彼女に気付いた。
同じくらいの年齢
セーラー服姿
髪は短めで、あまり手入れされていないように見える。
見覚えのない女性だった
開いた雑誌を前にして、ぼんやりと座っていた
・・・あゝ
高村は再び目を問題集に落とす。
彼女の胸には大きな洞(うろ)のような傷があったからだ。
その傷の周辺の血は、赤黒く乾いていて
それが古い、古い傷であることを高村に教えた。
何日か注意してみていると、彼女は大体決まった場所に座っていた。
高村が図書館に到着する前からいることもあれば、
彼のあとに来ることもあった。
いつも制服で、
いつも、ぼんやりと雑誌を眺めていた。
そして、いつも、閉館時間である21時まで
ずっと、そこにいるのだ。
高村も閉館までいるのだが、
彼は軽食を持ってきていた。
母親に、試験勉強をするからと言って、
持たせてもらっていた。
でも、高村が見る限り
彼女が何かを口にしているところを
見たことが、なかった。
「これ・・・食べる?」
高村が菓子パンを差し出した。
驚いたように見上げた彼女の顔を見て、
彼は、ハッとして顔を赤らめた。
自分でも、なぜだかわからない、
咄嗟に、声をかけてしまったからだった。
まずかっただろうか?
考えてみれば、唐突に過ぎたかもしれない。
高村はそんなふうに考えたけれども、
「ありがとう」
と、彼女は予想外に素直に、それを受け取った。
これが、海原由実と高村が話すことになる、きっかけだった。
高村雪一はよく、町の図書館を利用する。
その町の図書館は小さくて、あまり本も充実していない。
座れる椅子も少ないことから、必然的にいる人も少なかった。
本棚が密集していて、あまり人の姿を見なくても済む。
それが、彼がここを気に入っている理由だった。
彼女の存在に気がついたのは、高村が中間試験の勉強をしはじめてしばらくしてからのことだった。
ある時、ふと顔を上げると、
視界の端にいる、彼女に気付いた。
同じくらいの年齢
セーラー服姿
髪は短めで、あまり手入れされていないように見える。
見覚えのない女性だった
開いた雑誌を前にして、ぼんやりと座っていた
・・・あゝ
高村は再び目を問題集に落とす。
彼女の胸には大きな洞(うろ)のような傷があったからだ。
その傷の周辺の血は、赤黒く乾いていて
それが古い、古い傷であることを高村に教えた。
何日か注意してみていると、彼女は大体決まった場所に座っていた。
高村が図書館に到着する前からいることもあれば、
彼のあとに来ることもあった。
いつも制服で、
いつも、ぼんやりと雑誌を眺めていた。
そして、いつも、閉館時間である21時まで
ずっと、そこにいるのだ。
高村も閉館までいるのだが、
彼は軽食を持ってきていた。
母親に、試験勉強をするからと言って、
持たせてもらっていた。
でも、高村が見る限り
彼女が何かを口にしているところを
見たことが、なかった。
「これ・・・食べる?」
高村が菓子パンを差し出した。
驚いたように見上げた彼女の顔を見て、
彼は、ハッとして顔を赤らめた。
自分でも、なぜだかわからない、
咄嗟に、声をかけてしまったからだった。
まずかっただろうか?
考えてみれば、唐突に過ぎたかもしれない。
高村はそんなふうに考えたけれども、
「ありがとう」
と、彼女は予想外に素直に、それを受け取った。
これが、海原由実と高村が話すことになる、きっかけだった。
