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Injured Heart

第17章 進路

【The path he wants】

春がゆっくりと過ぎていく

「なあ、お前、進路どうする?」
3年になって、クラスが別れてしまった浅井は
昼休みになると、弁当を持って雪一を訪ねて来る

新しいクラスに、まだ馴染めていなかった雪一は
いきおい、彼と話すことが多くなる

「決めてない」
卵焼きをひとつ、頬張る。

「俺な、工学系にしようかと・・・機械いじりとか、意外と好きだし」
浅井は何でもできるやつだ。
ちょっとのことではめげない。
そして、何より優しかった。

誰かのために、何かを作る仕事、というのは
彼にぴったりな気がした。

「お前は?」
尋ねられて、考える。

自分は・・・自分はどうする?

雪一は、自分の進路を決められずにいた。

人と交わることが苦手だ。
傷が視えても、何もできない。

自分の言葉が、誰かを傷つけるんじゃないかと思って
うまく喋ることすらできない

「人と、関わらない仕事が良いな」
最後の楽しみにとっておいたひとくちカツを食べながら、
小さく言うと、浅井は雪一がびっくりするほど目を丸くした。

「意外だな」

医者とか、そういうの、向いていると思ったんだけど
と。

笑って「知能以外な」などと
軽口は叩いていたけれど、
その目は不思議と真剣だった

「一番・・・向いてないと思う」
弁当の最後の一口を飲み込むと、蓋を閉じた。

「誰かを助けるなんて
 怖くてできない」

それが本音だった。

ふーんと、言うと浅井は、少し考えて

「その怖さが分かるやつってのが
 一番向いてんじゃないのかな」

と言った。

雪一は、何故か、当麻の顔を
思い出していた。

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