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Injured Heart

第5章 傷むこころ

『どこに行くんですか?』
高校生くらいの少年が20代も後半だろうスーツの女性に声をかけた
女性は厚すぎず、また、薄すぎない、そんな品の良い化粧をしている
にっこりと笑って少年―高村―に応えた
「あら?ナンパかしら」

高村ははっと我に返ったように息を呑んだ
『すいません。ちょっとぼんやりしていて』
女性はくすりと笑う。長い髪が肩から零れる。
「ねえ、付き合ってくださらない?」
返事を待たずに高村の手を引いて歩き出した。

女性は高村を喫茶店に連れ出した
お茶をおごり
とりとめもない話をした
ファッションのこと
仕事のこと
最近見た テレビのこと
昔飼っていた ネコのこと

小さな鈴が鳴るような声で笑うたび
彼女の胸の亀裂が深くなっていく
涙のように血が頬に伝う
肩から腕が落ちそうなほどの肉の裂け目

話すごとに傷が増える

どうしたらいいのだろう
高村は言葉が出なかった

話す すれ違う 人を見る
音楽を聴く 優しい風が当たる
視線が刺さる
全てが彼女を傷つける

どうすればいい
 どうすれば

『何が、、、』

彼女は旅行に行った時の話をしていたとき、
やっと言葉が出た
それでも彼女は、高村の言葉が聞こえなかったかのように
来週行くコンサートの話を始めた

傷から鮮血が噴出す
口元から肉が殺ぎ落とされ
頭皮がずるりと剥け落ちる

『もうやめて下さい!』
『それ以上続ければ死んでしまう』
高村はとうとう声を上げる

喫茶店の人が何事かと一斉にこちらを見た
それでやっと、彼女は話すのやめた

そして 涙を落とした
「なんであなたには 分かるの?」
「最初から知っていたの?」

高村はゆっくり首を振った
『何が起きたか知りません』
『ただ 痛そうだと思って』

「あたし 今日 死のうと思ったの」

だからあなたを誘ったの
そう、彼女は語った

彼女の血がやっと止まった
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