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小さい王さま

第4章 4・ほんの少しだけだけど

 熊が虎に噛みつかれたあと、山羊が薬として熊の傷口に塗りつけていた草です。

「薬草だ」

 鼠はできるだけたくさん、薬草を噛みちぎり、口の中で柔らかくしました。そして石をおり、戦っている熊と虎の横を通り抜けるときに、山羊がしていたように、熊の傷口めがけて口の中の薬草を吹きつけました。

 柔らかくなった薬草は、みごとに熊の傷口に届きました。しかし傷の多さにはかないません。ふさがった傷は、ほんの少しだけ。それでも熊は、

「ありがとう」

 と言いました。

「熊さん、森に帰って待っています」

 鼠は振り返らずにその場を駆け去りました。月の花を抱えて、全速力で。

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