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小さい王さま

第4章 4・ほんの少しだけだけど

 虎は前足を振り上げたかと思うと、勢いよく振り下ろしてきました。しかしそれは鼠も予想していた動き。

「おっと」

 鼠はぴょんととんで虎の前足をかわしました。しかし、

「おまえなんかこうしてくれる」

 飛び上がった鼠の下で虎は口を開けました。このままでは虎の口の中へ真っ逆さま。しかも逃げようがありません。

 もう駄目だと鼠は覚悟を決め、目をつぶりました。ところがそのときです。

 ドシーンという思い音とともに、鼠は体じゅうをどこかに打ちつけてしまいました。

「痛ててて」

 目を開けるとねずみは石の下にひっくり返っており、虎は鼠に背中を向けていました。そして虎の正面には、途中で遅れていた熊の姿があったのでした。鼠は理解しました。口を開けていた虎に、熊が体当たりをしたんだろう。

 鼠はひっくり返ったまま、二頭を眺めます。二頭はしばらくにらみ合っていましたが、やがて虎が牙を見せ、熊が爪を立てて、激しい取っ組み合いが始まったのでした。

 たがいに上になり下になり、唸り、吠え、噛みつき、ひっかき、その乱闘は見ているだけでも怖くなるほどでした。しかしその白熱した戦いの中でも、鼠はふと、熊が自分を見ていることに気づきました。

 鼠はひっくり返った体をもとに戻しました。熊が争いを続けながら言います。

「この隙に月の花を取って戻るんだ」

「でも、熊さんが」

「僕のことはいい。この乱暴者を王にしちゃ駄目なんだ」

 熊は山羊と同じことを言いました。

「わかりました。じゃあ、花を取って戻ります」

 鼠はするすると石を登り、そのてっぺんに咲いている月の花を摘みました。そのとき、月の花のとなりに、見たことのある草が生えているのが目に入りました。

「これは」

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