
小さい王さま
第5章 5・月の花をめぐって
鼠が森に戻ったときには、もう日が暮れていました。走り続けたせいで体はくたくたです。精霊王がいる泉まであと少し。ねずみはなんとか足を動かして進みましたが、みんなで王さまを決める話し合いをした広場まで来たところでとうとう限界を迎えてしまいました。
目がかすんで頭がくらくらします。あと一歩、もう一歩となんとか進みますが、とうとう鼠はばったりと倒れてしまいました。月の花が、地面に転がりました。
それからどのくらいがたったでしょうか。月が夜空の真上に来たとき、鼠はようやく意識を取り戻しました。
鼠はしばらくぼんやりしていましたが、すぐに自分の使命を思いだしました。
月に青白く照らされた地面に、月の花が落ちています。鼠はよろめきながらも起きあがり、それを拾いあげました。そのときです。
ぬうっと背後から影がさしました。青白い地面に落ちるその影の形を見て、鼠はどきりとしました。虎の形をしていたのです。
おそるおそる振り返ると、虎が赤い目を輝かせ、牙をむき出していました。
「よくも月の花を横取りしてくれたな」
熊と戦ったせいでしょう。虎も傷だらけになっていました。
「返してもらおうか、月の花を」
虎が前足をさし出します。
大きくてとがった爪の生えたその前足を見て、鼠は震えあがりました。丘の上では虎の動きの隙をついて逃げることもできましたが、疲れ果てた今の鼠に、素早く動くことはできません。それに、かわりに虎と戦ってくれた熊もいません。
じりっと鼠は後じさりしました。
「返さないと、今度こそおまえを食っちまうぞ。さあ、返せ」
鼠は考えました。もし月の花を差し出せば、虎が王さまになってしまう。そうすると森の動物たちが困ってしまう。でも、今の自分には逃げる力も残っていないし、虎と戦うことなんてもともとできない。何より、食べられたくない。月の花を、差し出すべきか、差し出すべきでないか。
「さあ」
虎が間をつめてきます。
目がかすんで頭がくらくらします。あと一歩、もう一歩となんとか進みますが、とうとう鼠はばったりと倒れてしまいました。月の花が、地面に転がりました。
それからどのくらいがたったでしょうか。月が夜空の真上に来たとき、鼠はようやく意識を取り戻しました。
鼠はしばらくぼんやりしていましたが、すぐに自分の使命を思いだしました。
月に青白く照らされた地面に、月の花が落ちています。鼠はよろめきながらも起きあがり、それを拾いあげました。そのときです。
ぬうっと背後から影がさしました。青白い地面に落ちるその影の形を見て、鼠はどきりとしました。虎の形をしていたのです。
おそるおそる振り返ると、虎が赤い目を輝かせ、牙をむき出していました。
「よくも月の花を横取りしてくれたな」
熊と戦ったせいでしょう。虎も傷だらけになっていました。
「返してもらおうか、月の花を」
虎が前足をさし出します。
大きくてとがった爪の生えたその前足を見て、鼠は震えあがりました。丘の上では虎の動きの隙をついて逃げることもできましたが、疲れ果てた今の鼠に、素早く動くことはできません。それに、かわりに虎と戦ってくれた熊もいません。
じりっと鼠は後じさりしました。
「返さないと、今度こそおまえを食っちまうぞ。さあ、返せ」
鼠は考えました。もし月の花を差し出せば、虎が王さまになってしまう。そうすると森の動物たちが困ってしまう。でも、今の自分には逃げる力も残っていないし、虎と戦うことなんてもともとできない。何より、食べられたくない。月の花を、差し出すべきか、差し出すべきでないか。
「さあ」
虎が間をつめてきます。
