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小さい王さま

第5章 5・月の花をめぐって

 鼠は答えました。

「月の花は、渡さない。渡したら、森のみんなを裏切ることになるからだ。僕を食べるなら食べるがいい。それでも僕は、自分が助かるためだけに月の花を渡すようなまねはできない。いや、したくない」

 言ってしまったからにはもう助からない、と鼠は思いました。ぎゅっと目をつぶり、虎の牙が襲ってくることを覚悟しました。

「痛!」

 急に、虎が声をあげました。鼠が目を開けると、ぽとりと地面に何かが落ちました。石ころでした。

 鼠は虎を見上げました、虎も上を見ていました。その視線を追ってさらに上を見ると、木の枝の上に猿の姿がありました。

 猿はふたつ目の石を手に握りしめ、その手をふりあげました。

「これ、横取りなどするでないわ。汚い奴め」

「なんだと」

 虎は怒りますが、木の上の猿には手が届きません。

「降りてこい、猿」

 そう怒鳴った次の瞬間、虎の後ろから大きな影が迫ってきました。

「猿の言うとおりだ。おまえは王さまになるべきではない」

 熊でした。虎と同じくぼろぼろになっている熊は、それでも最後の力を振り絞るように虎に向かって体当りしました。

 虎はうなり声をあげて地面に転がります。

「くそう」

 さらに、今度は小さめの影が見えました。

「あんたは威張りたいだけでしょ。そんなやつが王さまになるべきじゃないわ」

 影は、地面に転がった虎の脇腹に頭突きをくれました。虎は体を折ってほえます。

 さらに森じゅうの動物たちが集まってきて虎を取り囲みました。

 さすがに虎も、大勢の動物を相手にしてはかないません。体を丸くして、手を出そうとはしません。ですが威勢よく言葉で返しました。

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