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小さい王さま

第5章 5・月の花をめぐって

「俺が王にふさわしくないっていうなら、誰がふさわしいっていうんだ」

「鼠に決まってるじゃないか。月の花を取ってきたのだからのう。虎よ、おまえもそれに賛成したはずだ」

 木の上から猿が言いました。虎は言い返します。

「鼠は俺と熊がけんかをしている間に月の花を横取りしただけだ」

 その言葉に、熊が言い返しました。

「僕は横取りされたと思っていないよ。鼠さんこそが王さまにふさわしいと思ったから、〝譲った〟と思ってるよ」

 あわせて山羊も言います。

「私も同じよ。鼠さんこそが王さまにふさわしいわ」

 ぎりっと虎は歯を鳴らしました。

「なんで、そこまで鼠が王さまにふさわしいと思うんだ」

「僕は――」

「私は――」

 熊と山羊が声を合わせて言いました。

「鼠さんに助けてもらったからだよ」

 そしてはじめに山羊が言いました。

「鼠さんは、喉が乾いて困っていた私に、ぶどうを食べさせてくれたわ」

 次に熊が言いました。

「鼠さんは、僕の傷口に薬を塗ってくれた」

 そしてまた同時に声をそろえて、

「だから王さまには鼠がふさわしいんだよ」

 と言いました。

 木の枝の上で猿がうなずきます。

「つまりは虎よ、鼠は月の花を取ってきたことにくわえて、ほかの動物を思いやる気持ちを持っている、だからこそ鼠が王にふさわしいということだ」

 猿の言葉に、集まった動物たちがいっせいに、

「そうだそうだ」

 と声をあげました。

 虎はしばらく牙をのぞかせて唸っていましたが、やがて、

「俺がおまえらに何をしたってんだよおおおお」

 その場に仰向けになって寝転んでしまいました。涙を流しながらおいおいと泣きます。

 思ってもいなかった虎の行動に、動物たちは呆然と顔を見合わせました。鼠もそのうちの一匹でした。

 鼠はふと思いました。そういえば、虎に何か悪いことをされたっけ?

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