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小さい王さま

第3章 3・水はないけど

 そうきかれて鼠はしまった、と思いました。こっそり背中に乗っていたことを話したらあの角で突き飛ばされてしまうと思ったのです。でもすぐに言い訳が思いつかなかったので、おそるおそる正直に話しました。

 すると山羊は怒ると思いきや、ふっと笑っただけでした。

「さすが言い出しっぺね。絶対に鼠さんだけは勝てないと思っていたけど、ちゃんと勝つ方法は考えていたとはさすがよ」

「ごめんなさい」

「いいわよ。それより、私は喉が乾いたわ。もう走れない。水が飲みたいわね」

 言われて鼠は、あたりを見渡しました。川はありませんが、木の上にぶどうがなっているのをみつけました。

「山羊さん、ちょっと待っていてください」

 鼠はするすると木を登ると、ぶどうのへたをかじって、ふさを地面に落としました。そして山羊に向かって叫びました。

「ぶどうを食べてください。少しだけど、喉を潤すことができますから」

 そして次々とぶどうを落としていきました。地面には山羊の頭くらいにぶどうが積もっています。山羊が答えました。

「鼠さんありがとう。これだけあれば充分よ。私はぶどうを食べるから鼠さんは先に丘の上を目指して走るのよ」

「でも、山羊さんを放ってはおけないですよ」

「私は大丈夫。ぶどうを落としてくれたお礼に王さまの座は鼠さんにゆずるわ」

「でも」

「早く行きなさい。虎を王さまにするわけにはいかないわ」

 鼠は気おくれを感じましたが、それを振り切って答えました。

「わかりました、では先に行きます」

 そして振り返らずに丘の上へ向かって走り出しました。

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