
スメンクカーラー
第1章 街工房の少年、ナクト
少年ナクトは親友たちと酒盛りをしていた
彼らの話題と言ったら女の子の話と仕事の愚痴
特にナクトは職人の家業を継がなければならない未来に閉塞感をもっていた
新都アケトアテンは新しい立派な建物が多い大きな街だが、移転前の前首都ウォセよりも物流が良くなく街の物価は上がっていく一方だった
「このフルーツ、ウォセだったら半値以下なんだぜ?新都は世知辛いよな?」
若い彼らもそのあおりを食らって、昼間から酒を浴びるくらいしかうっぷん晴らしがなかった
同年代の男たちは王宮直属の建設業に就く者が多い
彼らは国家プロジェクトに参加しているため賃金も待遇も良く見てくれも良かったが、職人の見習い工であるナクトたちは金回りも悪く女からも見向きもされなかった
類は友を呼ぶ、ナクトとテーブルを囲む親友たちも似たような境遇でほとんどが家業を嫌々手伝っている
今で言う「イケてないグループ」だった
散々愚痴を言い合ったナクトたちは店に長居し過ぎたため店主に追い出されてしまった
しぶしぶ宴はお開きとなりナクトたちは解散した
あたりが暗くなり始めとぼとぼ歩いていると突然サンダルの鼻緒が切れた
「くそ、なんともツイてないや
また親父に前借りしてサンダルを新調しないとなぁ」
ナクトは片足だけ裸足になり壊れたサンダルを手にしながら工房と隣接している自宅へ戻ってきた
「親父ぃ、居るか? 工房のほうかな?」
ナクトはぐるりと建物の裏側へまわる
すっかり暗闇だが勝手知ったる自分ちなので気にせず工房まで歩いていく
工房の中は真っ暗で油の灯りもなかったが、なんだか奥の方に人の気配がする
「親父?」
作業場の広い部屋の奥のは事務所兼書斎だ
手探り足探りで奥の部屋へ向かってみる
すると突然、何者かがナクトの口元を押さえ首元に冷たいものを押し付けてきた
“強盗!? 首を斬られるッ!?”
ナクトが半ば諦めかけたとき、
正面から女の声が静かに響いた
「やめろ、離してやれ」
「はっ」
書斎の椅子に座っていたのは若い女だった……
