
スメンクカーラー
第1章 街工房の少年、ナクト
女の両脇にふたりの男
そしてナクトを押さえつけている背後の者
侵入者は4人
背後の者はナクトの首からナイフを外したものの、いまだナクトの半身を押さえ込んでいた
すると聞き慣れた声がした
「ナクト、抵抗はせず膝をつきなさい」
暗がりをよく見ればナクトの父親ホルンがいた
ナクトは父親の言葉通り強ばった筋肉の緊張を解き、ゆっくり膝まづいた
「息子のナクトです、ご安心下さい」
父親は集団のあるじであろう女に告げた
ナクトは父親が見知らぬ女に媚びているように思えて苛立ちを隠せなかった
“おい親父!アンタが座るべき椅子を取られてるんだぞッ!?”
父親はナクトの気持ちを無視して女に語りかけた
「わが息子ナクトも立派な職人です、我々年寄りよりも繊細な感覚を持っております」
「親父!?なんの話しだよ!いつも俺の仕上げに文句ばかり言ってるくせにッ!?」
「お前は黙ってろ、お前が口を開いて良いという許しが得られるまではな」
ナクトは憤慨したが目の前の集団はかなり高貴な者たちなのだろう
長衣で隠されてはいるものの身に付けている装飾品がジャララと音を奏でている
女は頭を覆っていた大きなフードを外すとその顔を親子にさらした
若い!
落ち着いた女の声だったので年配者かと思っていたがナクトとそう変わらない若い女であった
髪は装飾用の布で隠されているがその布の紋様はまるで王族だ
それよりもナクトが気になったのは彼女の口元に付けられた“あごひげ”の付け髭だった
“女のくせにあごひげ?”
ナクトが女を凝視していることに気付いたホルンが慌てて息子を叱りつける
「何をしている!ナクト、頭を下げろ!
女王の御前だぞッッ!!」
「女王?」
ポカンとしているナクトに対し背後の者が無理やり彼の頭を掴み強引に頭を下げさせた
押さえつけながらはナクトの耳元に近付きこう告げた
「スメンクカーラー王の前である
お許しがあるまで口を閉ざしていろ小僧」
一介の町職人の工房に現ファラオが現れたのだ
ナクトが信じられないのも無理なかった
そしてもうひとつ
彼を跪かせ耳元で囁いてきた高圧的な声の主は
女の声であった……
