
スメンクカーラー
第1章 街工房の少年、ナクト
翌朝
早朝から工房長である父が資材の買い出しに出かけているあいだ、ナクトは工房で自分のサンダルを修復させていた
だが石を削る道具ばかりでパピルス草の在庫などなかった
書斎と備え付けの厨房の部屋はゆうべ彼らに占拠されてしまっている
何やら話し声は聞こえてくるので起きているのだろうが、広い工房のほうへ顔を出しては来なかった
また押さえつけられるのも面倒なので挨拶もせずナクトは顔を出さなかった
昼になって、どうやってもサンダルが直せないことに諦めたナクトは書斎の方に声をかけた
「あのぉ〜?」
「なんだ?」
書斎の扉から女兵士のメリトが顔を出して来た
「いや、その、俺のサンダルを修理したいんだけど……、ちょっと履物屋に出掛けてもいいかい? アンタら留守番しといてよ」
メリトは少し考えて、
「ちょっと待ってろ」
とだけ告げて奥へ引っ込んでしまった
“何だよ”
放置されたナクトが憤慨しているとふたりの人間が奥から出てきた
地味な長衣をかぶっていて誰だかわからない
「え…? なに??」
「わたしも行く、案内しろ」
フードをすこし外したふたりはスメンクカーラー女王とメリトだった
「えっ!?冗談だろ…」
「街の雰囲気をすこし見てみたい」
「私は陛下の護衛だ」
「イヤイヤ!バレたらマズいって!!
街がえらいことになるだろッ!?
それに危険な目に遭ったらどうするんだよ」
「その為に私が居るのだろーが!」
確かにメリトの怪力なら街のチンピラぐらい手玉にとれそうだ
「ちなみに前王のアクエンアテンはしょっちゅう街へ繰り出していたので顔バレしているが、私はほとんど市井には出なかったからな
外を歩いても見つからんさ!」
「わたしがお守りします」
「待て待て!神官さん、止めてくれよ!
俺はサンダル直しに行くだけなんだよッ?」
「静かにしろ、神官たちは昼メシ食って昼寝してるんだ、出掛けるなら今しかない」
こうしてナクトは女王を街へ案内する役に選ばれたのだった……
