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幻想遊園地

第1章 第1話:シンデレラ ―The Real Story―

「お前・・・」
王妃が声をかけると、娘はびっくりして振り向きました

「お前、なぜ王宮に行かぬ」
「あなたは?」
「私のことなどどうでも良い。王宮に行くのじゃ」

その声はもう、先程のようなしわがれた声となっていました

「でも、私は、王宮には行くなと、
 母から言われておりますので・・・」

灰を被った娘はうなだれた

「それに、こんな姿では舞踏会には行くことはできません」

日は傾き、もうすぐ夕日となりそうでした
「ええい、そなたの母の言うことなど構うではない
 お前は、お前はどうしたいのじゃ」
「私は・・・」

「私は・・・、一度で良いので、王宮に行ってみたいです。
 もし、王子と踊れたら夢のようでしょう・・・でも、
 かまどを掃除しなければなりません
 お母様やお姉様の服も洗濯しなければなりません」
娘はそっと言いました

「分かった。そこを動くでない。
 お前はこれから王宮に行くのじゃ、
 直ぐに準備をせよ」

王妃は急いで馬車から、持ってきたドレスや靴、化粧道具を取り出しました
慣れた手であっという間に娘をどこかの国の王女のように着飾らせました

髪もきれいに結い上げ、化粧も美しく施したので、
実の親が見ても本人だとはわからないくらいです

「まあ、これが私・・・まるで魔法のよう
 あなたは魔法使いか何かなのですか?」
水くみ桶の水面に映る自分に姿を見てうっとりする娘の手を引き、
王妃は馬車まで連れて行った

「さあ、この馬車で王宮に行くのじゃ」
御者が馬車を走らせます
「あなた様は一体・・・」
娘は馬車から顔を覗かせ、王妃を見ました
王妃はつい、元の声で叫んでいました
「自分のことを信じなさい!
 信じれば、それは魔法に、そして魔法は現実になるのです」

馬車はまた、矢のような猛スピードで王宮を目指します
その中で娘はつぶやいていました
「声が変わってらしたわ
 あの方は本当の魔法使いなのかもしれない。
 ねえ、あなたは、あの方のことをご存知ではないの?
 あの方はどなた?」

御者に聞きましたが、御者は馬車を走らせるのに夢中で答えてはくれませんでした

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