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春のほどけ…戻れない距離

第2章 「卯月」―揺れと否定

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 あれから約二週間…
 お互いの体調と、わたしの仕事のシフトの多忙により、逢瀬の時間を開けていた。

 もちろんその間…
 日々、LINEのやり取りは、密に交わしてはいた。

 だが、もちろん…
 あのことは、わたし一人の胸にしまっていた。

 いや、とても、めいに、話すことなんてできるわけもない…

 わたしには、めい達夫婦の関係を、壊すつもりはまったくなく…
 ただ、わたしは、めいと一緒にいたいだけだから。

 しかし…

 あの会話により、抱いてしまった、彼への恐怖心は、心の奥で蠢き続け…

 そして、もう、あの寝室には、入りたくないと―――
 
 でも、それを、めいには打ち明けられる訳もなく…
 わたしは必死に、心のジレンマに抗おうとしていた。

 だけど……

 時間の経過と共に、心とカラダの寂しさが…
 
 止めようとするほど、止められない想いが、胸を昂ぶり、騒めかせ…
 
 もう、保てなくなりつつあった―――
 
 わたしは、シフト表を見つめ、違う方法での逢瀬を模索していく…

 めいに逢いたい…

 めいと愛し合いたい……

 もう、何もなかった頃には戻れない…

 だから、決めねば―――


 だが、その想いは…

「弥生さん……」
 
 不意な、後ろからの、その声に…
 
 脆くも、崩れてしまう。

「え……」

 振り返ると、そこに、柔和な笑顔のめいの旦那さまが立っていた―――
 
「あ、え、なん……で………」

 一瞬、息が、止まる。

「あ、○○先生にね…」
 
「え………」

「あれ、めいから聞いてないんですか…」

「…………」

「私、△△機器のペースメーカーのエンジニアをしてて…」

「…………」

「先週から、ここの病院担当になったんですよ」

 血の気が、引いた。

「今、ようやくお昼で、この病院地階のコンビニにね…」

「あ………」

「弥生さんも、今、お昼なんですか?
 忙しそうですもんねぇ………」

 その言葉の柔らかさとは、真逆の、凍てつく様な、逸れない目…

「そうかぁ、だから…
 最近、ウチにも、来れないんだぁ…」

「あ、い、いや………」

 膝が、震える。

「弥生さんの科のシフト、人手不足だそうでぇ……………」

「…………」

 目だけが、逸らせない―――



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