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春のほどけ…戻れない距離

第2章 「卯月」―揺れと否定

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「それに、たまに…似た香りも………」

「…………」

 そう、呟いた時の、その冷たい目…

 そして、含みを持たせた様な声音に…

 わたしは、絶句し、小さく震えた。

「めいは……甘えん坊だし……それに…」

「ぇ……」

「耳のあたり……が…………ね…………」

「っ………」

 一瞬、息が、止まった―――

「ま……これからも………
 色々と…仲良くしてやってくださいね…」
 
「ぁ……」

 その、意味に…

「もお、何話してるのよおっ…
 ほらぁ、二人とも可愛いわよぉ……」

 膝から崩れそうになった瞬間…

 めいが、目の前の小さな背中の二人を指差し…
 わたしの腕に絡ませてきた。

「……っあっ……」

 そのめいの動きと声に…
 
 ハッと我を戻し、わたしは、かろうじて、踏ん張った。

「あ、いや、めいをこれからもよろしくってね…
 ねぇ、弥生さん………」

 旦那さんは、さっきとはまるで別人の、柔和な笑顔を見せ、そう返す…

 だが、そのメガネの奥は、冷たく逸れず…

「…え、あぁ、う、うん…そう…なの……」

 わたしは…

 そう、頷くしかなかった。

「もお二人でぇ、わたしを子供扱いしてぇ」

 そんな明るさが…

 逆に、わたしの心を更に、凍らせてくる。

「ほらぁ、アナタぁ、写真撮ってよぉ…」

「うん、本当、二人とも可愛いいなぁ」

「ねえ、弥生、ホント、可愛いいわねぇ」

「……ぁ……う、うん………」

 背中に冷たいモノが、スーっと流れ…

 わたしは、寒くて…

 ううん…

 怖くて…

 指の震えが止まらないでいた………

 わたしの脳裏には、めいの旦那さまの、あの…

 逸れずに見つめてきた、冷たい目…

 一瞬歪んだ、あの唇が…

 消えない―――



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